「近・現代文学研究会」 第93回(2007年1月) 


   武田泰淳 「森と湖のまつり」  
 

 一月十八日、民主主義文学会の会議室で行われた第九十三回「近・現代文学研究会」は武田泰淳「森と湖のまつり」を取りあげ、報告者として、「北海道民主文学」に「アイヌを描いた文学」を掲載した札幌市在住の松木新氏を迎えた。「森と湖のまつり」は一九五五(昭和三十)年八月から一九五八年五月までの長期にわたり、雑誌「世界」に断続的に掲載された長編小説である。松木氏は武田泰淳の作品の中からこの小説を選んだ理由を、「アイヌを描いた戦後最初の文学」であり、著名な批評家たちの解釈と評価はまちまちで定説はないが、「現代につながるアイヌの課題を提起しており積極的に評価できる」作品だからと述べた。道東各地を舞台として繰り広げられるこの物語は、一九五五年九月の第一日曜日から約一週間の出来事に過ぎないが、その中にアイヌ問題が網羅されている。アイヌを歴史的・文化的に考察している場面があり、それは差別とたたかいつつ民族の文化を積極的に押し出す今日的な意義があるが、作品の底流にあるアイヌ滅亡観とアイヌへの贖罪意識は払拭されなければならない、と報告した。
 質疑応答のあと、次のような感想や意見が出た。泰淳の作品は「司馬遷」から入り、「蝮のすえ」が最高だと思っているのでこの作品には違和感がある。泰淳の作品の中でこの小説はいわば突然変異であり傍流であるがそこが面白い。この小説は恋愛小説として読むことができる。女性の献身的な愛やエロチシズム、嫉妬心などがなまなましく描かれている。研究会で取りあげたのでこの長い作品を読む機会を得てよかった、という発言には同感する者が多かった。参加者は十一名。                         
 
  (堺田鶴子)     
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