「近・現代文学研究会」 第92回 (2006年11月) 


   三浦哲郎 「忍ぶ川」  
 

 第九十二回「近・現代文学研究会」が十一月十六日、民主主義文学会会議室でおこなわれた。三浦哲郎「忍ぶ川」が取り上げられ、工藤威氏が報告した。関西から上京中の三木朋子氏も加わり、参加者は十一名だった。

 工藤氏は三浦哲郎作品との出合い、作家のプロフィール、名作「忍ぶ川」という順でおおよそつぎのように話した。@一九六〇年代の、三浦作品との出合いを契機に、七十年代には文学無関心の自分がすっかり変った。それ以来、三浦哲郎は忘れ難い作家となった。A「白夜を旅する人々」は、生と死を常に考えてきた三浦哲郎の集大成的な作品である。「十五歳の周辺」は印象に残る作品だが、「忍ぶ川」まで彼には作品らしい作品は無い。長編も書いているけれども、彼はやはり短篇作家である。B芥川賞受賞時、私小説「忍ぶ川」は六〇年代の時勢に合わぬという声が誌上で上がったことがある。本人は切実なテーマを自分の文章で書いていく、とこれを受け入れていない。「忍ぶ川」に現れたリリシズムについて、優し過ぎると言う人も居る。が、三浦文学に見られるのはそればかりでない。不幸な境遇を書いた「恥の譜」にはそこからどう生きるかという強さも現れている。

 討論では、「忍ぶ川」を志乃と結婚して田舎へ行った、それだけの話、と言ってしまったのでは身もふたもないという発言をうけて、雪国の初夜に志乃と二人で見る雪景色と、馬橇が鳴らす鈴の音の美しさには参ったという感想とともに、現実の汚れや醜さが捨象され過程の苦しみは描かれていないという発言もあった。洲崎で、志乃が学校の焼け跡を見つめる情景に時代背景は出ている。「志乃をつれて深川へいった」という冒頭部分のつれては男性の感覚だ、こういうところに古い女性観が現れているなどの指摘があった。 
 
 
  (土屋俊郎)     
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