「作者と読者の会」 2007年8月号(関西開催) 



 『民主文学』八月号に横田昌則さん(大阪支部)の「青い実」と神林規子さん(泉州支部)の「パースの日没」が掲載されましたが、この関西の作者の二作品が掲載されたのを機に、関西でも「作者と読者の会」を開催しようとの、常任幹事会の呼びかけで、八月十一日、「作者と読者の会」が大阪市大正区の大正共同作業所に十一人が参加して開かれた。司会は橋本宏一。最初に柴垣文子さんが「青い実」について報告し、父と子を題材にした作品で、現代社会の核心に迫った、優れた短編と評価。トマトの青い実がとてもよく効いている、人間発達の可能性を青い実に託して終わっているのが爽やかで、生きる勢いがある、と述べた上で、注文がないわけではないとして、女性教師の人物像が平面的で、時代の波のなかで浮かび上がる人間像として描く必要があること、また修飾語の多いのが違和感を与えてしまう点も指摘した。討論では、主人公からみた教師像だからこうなった、味わいのある感性でとらえている、人情と笑いと落ちがある、大阪弁もいい、大阪の作家やなと思う、学校の描き方が巧いが教師と妻の存在がうすい、などの意見が出された。どうしたら適切な人物像を描けるかについて議論も起こり、作者の「悪者」「善人」といった感情や既成概念の先走りを抑え、見えない部分をも見ようとする(想像する、取材するなどして)努力によって洞察力の深さ広さをもつことも作品創造には欠かせない、などの提起もされた。
 休憩後、「パースの日没」に移り、草薙秀一さんが報告。作者の作家歴を紹介してから、この作品は、主人公が確執のあった弟を亡くし、惜別と鎮魂の思いから己のあり方を問うたもので、主題も明快、文章も読みやすく、弟への思いもそれなりに描けている、と全体として評価しつつも、主題を構成する弟の人物像の形象は生きたものとして飛び込んでこない、それが、主人公の後悔と痛切さを弱めているうらみがある、と指摘した。これは弟の人生が説明または説明の会話で叙述され決定的な局面が描写になっていないからで、重大場面を描くことで悔恨はもっと痛切に読者をとらえるはずだ、舞台がオーストラリアのパースである必然性があるのかも疑問、などの報告があった。これに対する議論では、外国を舞台にした小説はあまり好きではないが、外国でないと距離感がもてない、これはこれでよいのではないか、姉・弟の絆を時代が失わせたというのは読んでよくわかる、なくしてみて初めてわかるのが人間の絆、大切さを知れば知るほど悔恨は深い、娘の成長とパースの日没の美しさ、弟の痛ましさが光る、場面設定が成功している、弟の死が散見される描き方が迫力をそいでいる、いっそ娘の存在をなくした方がよいのではないかなどの意見が出された。最後に作者が、やはり舞台はパース、娘に叔父(弟)を語らせたかった、との思いを語り、三時間余りで終了した。
  
 (橋本宏一) 
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