「作者と読者の会」 2007年5月号 



 四月二十七日、林田遼子「風綿」、桐野遼「リングを買う日」の作者と読者の会が開かれた。両作者とも出席、桐野氏は『民主文学』初登場、十三人が参加した。司会は岩渕剛氏。
 「風綿」について、報告者の宮本阿伎氏は、はじめに作者の作品歴を紹介しながら、筆者は今回の「風綿」でこれまでの作品から、新たな挑戦を試みている、と述べた。
 林田作品に流れているのは「時代の荒波に翻弄されながら必死に生きる庶民の生活の活写」「社会の底辺で生きる彼ら国民をさいなむ国の在り方、時の施政者に対する異議申し立て」であり登場人物をその生活の細部に表現している、とした吉開那津子氏の作品評を例に出して、今回の作品の中においてもその良さは随所に発揮されている。朝鮮戦争開始後の激動期を大きな時代的視点から描こうとした。紡績工場で働く主人公である早智子が社会の矛盾に気づいて目覚めていく過程が描かれる。作中、「原棉」が「綿」に変化していく工場の生産過程を女工たちが見学する場面描写は圧巻である。大きな時代的構図に早智子との対比で淑恵の目覚め、自立の過程を作中で迫ったことに新たな挑戦の意図があり、作者はそのテーマに迫っている。淑恵の不可思議な行動が、読者を引っ張り、重要な山場を作っていくが、最後の「手紙」では明瞭になりすぎ、関係が滑らかではない、と述べた。
 参加者の発言でも、この手紙の設定が議論になって全体の小説の重層性、リアリティーがこの手紙で崩れてしまっている、淑恵の存在性をこのような形で表さなくてもよかったのではないかとの指摘があった。作者は、タイトルとなった「風綿」(ふうめん)に文学上の響きを持っていた、と作品に寄せる熱い想いから、工場現場を再現していく上での取材の苦労と、反面、書きながら製糸工程の現場を再現させていくことの楽しさ、こういう工程で糸が変化していく、それをみんなに伝えたかった、との話があった。
 次に「リングを買う日」について、乙部宗徳氏が報告した。はじめに作品の内容について、大型スーパーの進出で、売り上げの伸びない青果店の主が、パートで働く女性にプロポーズする、ふたりは消費税の中間納付の「大切な日」に、婚姻届を出す。中年男女の恋愛物語であるが、一方でなぜ結婚するのにこだわるのか、の社会風潮のある中で「純愛」の成立を描いた。圭治と典子のやりとりから、「指輪を買ってください」までの前半の山場、そこはうまく描けている。税務署の女性職員、指にはめていたプラチナのリングが、典子と対照的な人物として、この対比を描いたのが小説全体の構成。
 報告者から作品分析の「視覚」として、ステレオタイプ、「タブロイド思考」、「ジェンダー・バイヤス」の分析方法が紹介され(略)、そこからの作品分析が試みられた。税務署職員の描き方は典子との対比(ジェンダーバイヤス)として描かれるが、ちょっと型にはまりすぎではないか、税務署の職員が「本当の敵」にも読み取れ、行き過ぎではないか、消費税の中間申告が、なぜ今そこに描かれなければならないのか、主人公にとって消費税のなにが問題なのか、が分かりにくかった。
 出席者からは、ほのぼのとした作品世界、とても気持ちよく読んだ、典子がいい、民主文学誌上で読みたかった作品、ただやはり税務署職員の女性だけは分からなかった、それ以外は全部良かったなどの発言があった。
 最後に作者からは、中小業者の明るさというより、たくましさを描きたかった。その対比に税務署職員の女性を置いたが、ちょっとやりすぎたかなー、と思う、と述べた。
 (高原尚仁郎) 
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