「作者と読者の会」 2007年10月号 



 九月の「作者と読者の会」は『民主文学』十月号掲載の短編五作品のうちの「ウソルを送る」と「希望の里」の二作品を対象に、九月二十八日の夜、澤田章子さんの司会で十五人が出席して開かれた。
 「ウソルを送る」の報告者は吉開那津子さん。吉開さんは、少数民族であるアイヌ民族への差別、生活や文化が奪われていく苦しみや悲しみが描かれており、それは世界中で起こっている少数民族への差別や圧迫について考えさせられる小説であると評価。しかし、小学校教師となった主人公・ちあきがアイヌであることを恋人に告白したことにより去られていくことの中で苦しむことにくらべ、母親は夫からひどい暴言をうけてもたじろがない。その姿があまりにも立派すぎるのではないかなど、作品の弱さを指摘。
 討論の中で、題名となったウソルは貞操帯とされているが、その大事さの意味がよくわからない点があるのは読みづらく惜しいなどの意見があったが、アイヌ問題を女性が自覚していくことの中でとらえており、作品化されていることはすばらしいなどの感想が出された。
 「希望の里」の報告者は能島龍三さん。家庭の貧しさから養護施設に入った日田の目を通して、激しい体罰をふるう職員をはじめ、問題を起こして殴られる少年、また、施設を出たあとは定時制高校に通うことをめざす少年など一人の個性がしっかり描かれている。施設の問題、人間とは何か、家族とは何か、そして時代を描いて好感を持てる。注文としてお母さんとなぜ別れなければならなかったのか、貧困の背景をきちんと描くことが必要と問題提起。
 討論の中で、少年たちの個性がよくとらえられており、作品の展開もドラマチックで一気に読めた。「職員は去っていく」と信じるものがない状況がリアルに描かれている中で、結婚を機に辞めた保育士から万年筆が贈られる場面には心打たれるなどの感想が出された。
 作者の川村俊雄氏から三十五年ぶりに小説を描いた。五回書き直して、ようやくこの形になったと語られ、温厚で粘り強い性格が作品を生み出す原動力になっていることを感じさせられた。                            
(苫 孝二) 
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