「作者と読者の会」 2006年12月号 


 十二月二日、東京労働会館「ラパスホール」で作者と読者の会が開かれた。司会は旭爪あかね氏、報告者は小林昭氏。作品は十二月号支部誌・同人誌推薦作品から、小川かほる「こどものいる風景」(優秀作)、窪町泉「居場所」、平良春徳「小火」の三作がとりあげられた。参加者は合評対象の作者の他、「鶴代」の作者、能村三千代氏、「わたしのまちに戦争が来た」の作者、浅利勝美氏も参加され、全体で三十五人でした。

 小林氏は各作品について、選評で述べた意見をさらに補足する形で報告された。「こどものいる風景」については、時代の変化をさまざまな情景の中に敏感に捉え、四十数年前の子どもたちが生き生きと動いている作品で好感をもって読んだ。国旗・国歌についての部分は、読者に問題を分からせようとする小説になってしまい残念、などと報告された。参加者からは、日本社会の変貌を見事に描いた作品、国旗・国歌については、最初から伏線を張って置くなどしながらもっと書き込んだ方が良い、最後に光子に長く語らせた部分はない方が良いなど、具体的な意見が出された。

 「居場所」については、アクチュアルな現代の素材を取り上げ、人間を変わるものと見ているのがいい、しかし、変わるところで見えてくるものは何かも書かれているとよかったと報告者は述べた。参加者からは、報告者と同様の感想の他、テンポが速く作品世界に浸りきれない、登場人物の葛藤が十分描かれていないのでは、などという感想が出された。

 「小火」では、無権利、未組織労働者の問題や労働者が連帯しにくい状況などを描き社会的意義のある小説だが、人間の生き方としての掘り下げが不十分で事実を越えて人間を描くことが課題ではないかと報告された。参加者からは、労働運動を描いて新鮮、視点の変化があったり地の文で作者が出てきて分かりにくいなどの感想があった。また、事件と人間を描く問題について、事件があっての人間であり、事件の中でどのように考え、行動したか、それを読むのが読者の楽しみ、主人公の思想をもっと高めて欲しい、それが人間を描くことに重なる、という示唆に富んだ発言もあった。

 終了後、「新人をはげます集い」が組織部長能島龍三氏の司会で開かれた。最初に森与志男会長より優秀賞を受賞した小川かほる氏の所属する多摩東支部の宮寺支部長に賞金が授与された。入選者五人の紹介のあと、各氏から作品の生まれたエピソードや苦労話、今後の抱負などが語られた。また、入選者の所属支部の方々の発言からは、活気ある支部活動の様子をうかがい知ることができ、仲間に鍛えられ、支えられて作品が生まれたのだと感じられた。新人を励ますと同時に、参加者自身も励まされた会となった。
 
(塚原理恵) 
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