「作者と読者の会」 2006年9月 


 九月二十九日、文学会事務所で、須藤みゆき「夏空の彼方」、浅尾大輔「ソウル」の作者と読者の会が開かれた。参加者は十八人(須藤氏は欠席)で、司会は乙部宗徳氏。

 「夏空の彼方」について、報告者の宮本阿伎氏は、文学に対しての基本的な向かい方がしっかりした作品であるとし、ニートと呼ばれる青年の葛藤とそれを立ち直らせたいと願う母親の気持ちを大切にして描いているところがいい、と述べた。その上で、飛び立てない人間に寄り添ってはいるが、その視点からだけ見ているため、「世界の歪み」「倫理観を信じる」などの言葉が、抽象的で問題の本質がつきつめられていないと指摘した。
 参加者から、「母親に生活感があり、温かみを感じる」「共感して読めた。作者が苦しんでいる若者を愛してくれていると感じた」「自分のスタンスを持っているところはいいが、問題が追求されていない。同質の人間を登場させて、対立物を設定していない。もっと破綻を恐れず書いてほしい」などの感想が出された。

 続いて「ソウル」について牛久保氏が報告。作者は重いテーマを重く書いていて、主人公のオギノが消されているが、その視点で語られる五つの層が重なっている。文体の特徴から読み続けることに困難さを感じるが、オギノもつらい状況をかかえて苦闘していることを描くには、こういう書き方でしか成り立たなかったのではないかと問題提起した。
 討論では、「これまでの民主文学の層をこえて受け入れられる可能性をもった作品だ」「最初で作品に入れない人はついていけない。こういう書き方でないとテーマが伝わらないのか」など、いろいろな意見がでた。最後に、浅尾氏が「一人でもいいから読んだ人間を変える作品を書きたかった。小説は多様な読みを可能にするものでいい。これからも、先行する作家を否定する気持ちで書いていきたい」と意気込みを語った。 
(久野 通広) 
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