「作者と読者の会」 2006年4月 


 四月二十八日(金)午後六時半より、『民主文学』五月号の「マルセイの妹」(唐島純三)と「徳丸ガ原騒乱」(田中山五郎)についての合評が行われ、十四人が参加。二作品とも激動する時代を背景に苦悩しつつ懸命に生きた庶民や知識人を描いている。司会は山形暁子氏。
 「マルセイの妹」は、最愛の妹圭子の死の知らせを受け、「私」が妹の自宅に駆けつけるところから始まり、回想につぐ回想のなかから、妹の恵まれないながらも自立しつつ、懸命に生きた姿を髣髴とさせる。実は妹に夫野見山を紹介したのは「私」であった。やがて一九七〇年代初頭、炭労(炭坑労働組合)につぐ国労(国鉄労働組合)つぶしを狙った「生産性向上運動」という名の「マルセイ運動」が激しくたたかわれ野見山は、出世の道を歩んで国労脱退のお先棒を担いだりもする。しかし野見山の背景には、部落差別も絡んでいるようである。
 報告者の宮寺清一氏は、「これは亡き妹への鎮魂歌。そう思うとよく書けている作品だ。気になるのは描かれているエピソードで、いくつの時? どの時代? などつかみきれないところが多い」と指摘。
 読者からは、「気になることは多々あったが、普通の女の一生ってこんな風だなと、妙に納得、感動した」「時間の処理が複雑、それでいて情感があり、女の哀しさが出ている」と。作者の唐島氏は「妹についてはすでに作品にしているので、今回はマルセイがらみで妹を書こうと思った」と語った。

 「徳丸ガ原騒乱」は、幕末の慶応二年から三年、明治にかけての激動の時代(「全国に農民一揆、打ちこわしなど未曾有に多発・激化する」「江戸に打ちこわし」「武蔵一円で打ちこわし」「幕府、窮民中の強壮者を兵に採用と布告」…岩波日本史辞典)を背景に、江戸は板橋宿徳丸ガ原(当時将軍の鷹狩の場所でもあり、高島秋帆による砲術訓練の場所でもあった。現在の高島平一帯)で起こった幕府直轄領徳丸村の農民の苦しみ、たたかいと名主吉兵衛の苦悩、身を捨てる覚悟等を描いたもの。
 報告者の牛久保建男氏は、「よく書かれたなあというのが実感。この小説の面白みは、あの激動の時代に民衆がどういう生活をしたのか、どういう苦悩を背負っていたのかに焦点をあてて、知識人としての吉兵衛の苦悩、人間性をどれだけ描ききるかがポイント。後半急ぎすぎた感もあり、もっとじっくり書いてほしかった。騒乱の事実、フランス兵を農民が取り囲み、拘束したことなど、歴史的事実なり、語り継がれた事実があるなら、冒頭か最後に明記すれば、読み手としてはイメージが湧くのでは」など指摘。読者からは、「山内忠之進という人物、先見の明があり、歴史を前に進める役をしていて小気味よかった」「面白くてあっという間に読んだ」と。作者の田中氏は、「資料については、明治維新を描いた歴史書に二、三行“徳丸村の農民がフランス士官を閉じ込めた”という記述を見つけたのが始まりで、最近の板橋区史にも書かれている。板橋の古文書にもいろいろ記述があり、史実にあわせて人物を作っていった。確かに書き足りない。もっと長くちゃんとしたものにした方がいいのかなと思う」と。いずれも読み応えのある作品で近代日本をどう見るか、歴史観にまで話題が沸騰した。 
(早瀬展子) 
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