第21回 「民主文学」 新人賞
新人賞 該当作なし、佳作に三作品

選考経過
  第二十一回民主文学新人賞は一月末に締め切られ、小説七十編、評論七編、戯曲四編の応募がありました。五月号ですでにお知らせしたとおり、第一次選考通過作は小説九編、評論一編となり、三月二十三日選考委員会が開かれました。そしてまず、下記五編を最終候補作品とし、最終選考を行いました。選考の結果、受賞作なし、佳作に上記三作品を選びました。


最終候補作品
〈小説〉
  山波おど女「『平和工房』の一週間」
  工藤和雄「鉄路よ、ひびけ」
  北岡伸之「源流へ」
  ゆう みずほ「かがやくみらい」
〈評論〉
  天野健「大地の痛み『トリニティからトリニティへ』を読む」
新人賞 
  
該当作なし
佳作
<小説>
  「源流へ」          北岡 伸之
   (1982年東京都日野市生まれ。静岡県掛川市在住。準会員。
  「かがやくみらい」     ゆう みずほ
   (1979年山形市生まれ。山形市在住)
  「『平和工房』の一週間  山波おど女」
   (1949年北海道室蘭市生まれ。札幌市在住)


新人賞 (賞金10万円)
 該当作なし

佳作
<小説>
  「源流へ」 北岡伸之
  きたおか・のぶゆき
  一九八二年東京都日野市生まれ。静岡県掛川市在住 準会員

  「かがやくみらい」 ゆう・みずほ
  一九七九年山形市生まれ。山形市在住

  「『平和工房』の一週間」 山波おど女
  やまなみ・おどめ
  一九四九年北海道室蘭市生まれ。札幌市市在住

〔選評〕

文学運動に新たな風を
                              乙部宗徳


 新人賞は「運動の広がりと次代をになう新しい書き手の誕生」を願ってつくられたことからも、やはり文学運動に新しい風を吹き込む作品を求めたいと思って選考に臨んだ。
 今回は海外を舞台にするなどグローバルな題材に挑んだものや、若い世代の苦悩にせまる意欲的な作品が目立った。前者には、ウクライナやガザでの戦闘という世界情勢、国際結婚や外国人就労、在留外国人数が過去最高を記録している日本社会の変容が映されている。これまでと比べて、題材の広がりを感じるが、それらを読者に実感をもって伝える点では、細部の描き込みや調査の不足を感じた。
 応募数は昨年と同じだったが、書き始めと思われる人も多く、ストーリーの単調さや、人物の造形の不足を感じた。文学教室や支部での合評などへの参加の機会があれば、完成度を高めることは可能だ。今回、新人賞は出せなかったが、今後に期待も持った。
 「『平和工房』の一週間」は、ロシアに侵略されたウクライナを支援する高齢者を描いている。日常から描いていることで無理がなく、テンポのよい会話で進めたことも良かった。
 「かがやくみらい」は、技能実習制度の今日的な問題を浮かび上がらせているが、主人公の父親の心理を深めてほしかった。
 「源流へ」には、「氷河期世代」の閉塞感が写されている。自然描写は魅力だが、この長さなら、それぞれの登場人物の仕事を含めて彫り深く描くこともできたかもしれない。
 今回は、会員の応募も多かった。もちろん応募は可能だが、「新しい書き手の誕生」を求める新人賞の目的からすると、評価基準は高くならざるをえない。主題の深化によって、それぞれの書き手にとってこれまでの延長ではなく、新しい到達となるような作品で、文学運動にとっても成果と言えるものでないと、新人の登場を選ぶことになる。すでに登場している方は、ぜひ通常投稿を望みたい。




選 評
                             風見梢太郎


 新人賞に推す作品はなしと決め、佳作候補として五作を選んで選考委員会に臨んだ。選考委員会での討議の結果、この五作の内、三作が佳作となった。
 山波おど女「『平和工房』の一週間」は、ロシアのウクライナ侵攻を扱った好編である。ウクライナの子どものために金を送ろうと、バッグ作りに励む高齢の女性たちの心意気に共感する。ロシア人から蒙った被害の体験が並べられているが、この部分がやや凝縮度に欠ける。「ロシア憎し」でなく、平和のために行動することで一致する人々の姿がよい。
 北岡伸之「源流へ」は、主張のはっきりした勢いのある作品だ。後半の源流に向かって遡行する場面には息を呑む。この主人公の生活の立ち位置のようなもの、働く姿などがもう少し具体的に描かれていると、より説得力のある作品になったのではないだろうか。職場の様子はもちろん創作でもよいのだ。読者が主人公に寄り添って作品世界に入るには、主人公の生活が丸ごと解るほうがよい。
 ゆうみずほ「かがやくみらい」には、技能実習生監理団体に勤務する主人公と、上司の理事長、実習生の派遣先の工場長などの人間関係がよく書けている。工場を無断欠勤し、失踪かと心配されていたベトナムの青年が、主人公の娘の恋人であるという設定がやや残念である。極端な偶然を使うと作品がリアリティーを失うことは知っておいてほしい。
 佳作にはならなかったが工藤和雄「鉄路よ、ひびけ」は、この作者の新しい境地を示している。短編であるにもかかわらず長い期間を扱っているので、全体が少し急ぎ足になっているところが惜しい。
 柴健太郎「生活保護」は、独り暮らしの高齢者がじりじりと貧困に追いやられる様が切迫感を持ってリアルに描かれている。限界状態の主人公が共産党に相談しすぐに生活保護が認められる件に小説としての深まりがほしかった。





題材を生かし自分のものに
                              かなれ佳織


 応募作品が描くフィールドが実に様々であることに驚き、また作者のひたむきな創作意欲を感じられるものが多く刺激を受けました。どこまでも真摯に作品と向き合い、書き続けてほしいと願わずにはいられません。
 山波おど女「『平和工房』の一週間」は「雑談」に庶民の平和への願いを折り込んだ楽しい作品でした。だが浮ついている訳ではなく、ウクライナの子どもへの思いや戦争に人生を狂わされた過去が語られる展開がよく引き込まれました。その本音を引き出す軽快な筆運びが巧みです。老いたからこそ分かち合えるものがあるという発見と同時に、現実の世知辛さに踏み込むと善良な三人の思考をより深められたかもしれません。バッグの作成手順は経験者だと追体験できますが皆が完成までをイメージできたでしょうか。
 一次選考外でしたが夏木弘孝「綿供養」は男の老妻に死装束を縫う裁縫師の話。装束を縫い上げる過程と着付けの描写には日本文化の深奥へ誘う力があり胸が詰まりました。
 北岡伸之「源流へ」は、就職氷河期を過ごし、いわゆる「親ガチャ」にもハズレた世代の叫びを捉えています。「男」の存在価値を歪めるジェンダー差別にも目を向け生き方を探る姿は、時代を映していて生きてやると叫ぶのが爽快でした。批判精神に支えられた独特な威勢のよさに惹かれますが関心の赴くまま進んだきらいがあります。的を絞り整理すれば作品世界の骨組みが安定すると思いました。
 外国人技能実習生の現在位置に焦点を当てたのが、ゆうみずほ「かがやくみらい」。実習生を増やし稼ぐ、といって憚らない監理団体の現状とその職員が右往左往する現場がよく描かれていて注目しました。職員が実習生を書類上で見ていたと気づく結末は自然ですが、終盤の娘の登場以後、三人の会話で繋ぎ話を収めたため、緊張感が削がれた感があります。




今後の可能性に期待する
                              久野通広


 新人賞は残念ながらでなかったが、いずれも現代のテーマを描き、今後の可能性に期待を持たせる三作品が佳作となった。
 山波おど女「『平和工房』の一週間」は、三人の高齢女性たちが、ウクライナ支援のために、古着からバッグを作って売り、義援金にしようという話である。多少、会話に頼りすぎるきらいはあるが、三人が語るそれぞれの人生のエピソードは、ロシア批判、「北方領土」問題ともからまって、テンポ良く臨場感がある。プーチンを目の前に座らせて話し合いたいというフキさんの「話し合って、話し合って、いい塩梅見つけるのが大人だべさ」との言葉は、人生の酸いも甘いもかみ分けた大人の至言である。
 ゆうみずほ「かがやくみらい」は、ベトナム人技能実習生ミンの「失踪」騒ぎの一日から見える彼らの厳しい現状を描く。実際に、「失踪」で一番多いのはベトナム人である。ミンを探す監理団体の佐島、その娘美咲とミンが交際する展開に構成の甘さはあるが、背景にある実習生の劣悪な労働条件への批判と、「書類でしか整理していなかった」技能実習生にどう寄り添うのかという問題提起がある。
 北岡伸之「源流へ」は、三人の源流釣り師たちが、未踏の源流でイワナを釣るまでを描く。小説の構成には粗削りなところがあるが、主人公が語る「就職氷河期」世代の鬱屈にリアリティーを感じた。自然と一体となった釣りの描写に迫力があり、そこから「俺は、どこまでも仲間と歩いて、どこまでも仲間と行って、相手を見つけて、そして、命のある限り生きてやるんだ」には、作者の生き方に対する前向きな強いモチーフを感じた。
 選外にはなったが天野健「大地の痛み 『トリニティからトリニティへ』を読む」は、林京子の作品に正面から向き合った評論として注目した。ただし、核兵器禁止条約発効という世界的動向を見据えて展開して欲しかった。




小説の文章とは
                                 宮本阿伎

 応募作を読ませて戴き現代を捉える問題意識に刺激されることが多かったが、小説としてのよしあしとなればそれだけでは済まないことも自明の理である。今回新人賞候補として推す作品を私自身見出せず最終選考に臨むこととなった。佳作に選ばれた三篇は何れも惹かれるところのある作品であったが、とりわけ現代社会に蔓延る小市民性を痛烈に批判する「源流へ」は、その思想性において、また登場人物の多彩さ、後半の山岳小説を読む味わいなどにおいて、新人賞にあと一歩と迫った重量感のある作品と言える。
 しかしながら〝あと一歩〟に小説の本質にかかわる問題が含まれている。〝小説の実体は文章以外のものではない〟とある作家が言いきったが、小説は文章による芸術だということを自身に叩き込み、粗削りに甘んじず高みをめざしてほしい。思いつくまま場面をつくり、言いたいことを人物たちに語らせればことは伝わるが、読者を芸術的感動に導くに至るとは限らない。
 「『平和工房』の一週間」も近隣に住む高齢の三人の女性がロシアのウクライナ侵攻に抗議して端切れでバッグを作りウクライナの子どもにお金を送ろうとする話だが、コミカルタッチのいい話でありながら、小説は文章による芸術だということが抑々作者の念頭におかれていない憾みがある。主人公「和子さん」は視点人物でもあるが、「さん」付けで呼ぶのはやめ、また後半がほとんど会話で成り立っていることについても再考を促したい。会話のうちにフキさんや親族の北方領土における戦時体験や、勝子さんが樺太アイヌの血統を引く女性であることから先祖の味わった苦難が語られるのは、北海道が舞台である小説ならではの貴重さだ。
 「かがやくみらい」は、地方都市を舞台に外国からの技能実習生の面倒を見る監理団体に勤める男性を視点人物として描く小説だが、小説の形として三篇中最も難が少ないのと裏腹に通り一遍だと言えなくもない。評論では、林京子の作品を論じた「大地の痛み『トリニティからトリニティへ』を読む」が時宜を得ていると思った。
 全体として辛口の評となったが、志を高くもとうと自戒を込め呼びかける気持ちからであることをご理解戴ければと願う。



第21回「民主文学」新人賞第一次選考結果について

 第二十一回民主文学新人賞には、小説七十編、評論七編、戯曲四編の応募があり、次の作品が第一次選考を通過しました。最終発表および入選作品は本誌六月号に掲載予定です(順不同)。

〈小説〉
南城八郎「陽は昇る」
眞篠久子「激動の時代の片隅から」
山波おど女「『平和工房』の一週間」
工藤和雄「鉄路よ、ひびけ」
北岡伸之「源流へ」
柴健太郎「生活保護」
齋藤航希「伝道者たち」
村上真理栄「父の恋」
ゆう みずほ「かがやくみらい」
〈評論〉
天野健「大地の痛み 『トリニティからトリニティへ』を読む」

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