心さわぐ文学サロン

第29回 フェミニズム、ジェンダー平等と文学

 十一月三十日(土)、第四回心さわぐ文学サロンを開催しました。テキストはチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』。まず、レポーターの馬場雅史さんから、この作品が書き始められたのは二〇一五年、韓国で女性蔑視に繋がる多くの事件が起こった年で、そうした背景を持って書かれた作品であるとの紹介がありました。精神科医のカルテ記載の形をとり、普通の小説とは違って、個人の心の襞に触れるような表現は敢えて切り捨てているとし、以下の六点について問題提起がされました。

@解決策は読む側に委ねられている。A政治的主張が抑制的で、ジェンダー差別の問題も「儒教的」とも言える視点から迫っている。B家事労働・ケア労働の無償制の問題。Cジヨンがこの後どうなっていくのか。D「社会的格差」や「セックス」が敢えて書かれなかったのは?E「82年生まれ、キム・ジヨン(韓国の82年生まれに多い名前)」が、日本で「昭和57年生まれ、佐藤裕子(その年の日本に多い名前)」として出版されたら共感や批判を得ただろうか?

 参加者それぞれが、周囲にあった男性優位の社会の有様や経験してきた女性蔑視の状況、自分自身の中に沁み込んでいる差別意識などを語り、ここまで男を虚仮にした小説は初めてという意見、この本は日本の男性、労働者に読んでほしいという意見も出ました。

 問題提起はあるが解決策はない。それは社会の中で考えられていくということで、表紙の顔の無い絵はキム・ジヨンの個人的な問題にしたくなかったから、などの意見に討論は収斂していったようです。参加者は都合の悪い人続出で、十一名と少々少なめでした。

          
 
 (青木陽子) 

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