「労働者の現状と文学研究会」 (2012年3月)


   竹本賢三 『蘇鉄のある風景』  
 
  三月十六日、竹本賢三の『蘇鉄のある風景』(新日本出版社)、ガンの記録(上・下)、(その2)(いずれも文化評論、未収録)をとりあげた。報告者は乙部氏、司会は牛久保氏、参加は八名だった。報告の論旨を紹介する。
 赤旗記者だった竹本が書いた小説には、六〇年代の和歌山県における原発誘致反対の闘い及び八〇年代の原発労働者の組織化と分裂策動という二つの主題があった。作品群の特徴は、労働者を犠牲にして成り立つ仕組みを見通した上で原発労働の実態を描出し、被曝や健康障害の実態をリアルに描いたこと、原発労働者の自覚的民主勢力との出会いを正面から書いたことである。今何を受け継ぐのか。それは、原発が利益共同体によって推進されてきたという構造的視点に立ち、これまでの闘いを新たな闘いにどう繋げて書くかにある。
 続いて意見交換に入った。
 八〇年代初頭、原発下請け労働者の組合誕生と分裂に関する状況認識の補充意見、並びに〈原発反対の立場にあっても科学的根拠が分かっていない人々の、一様でない人物の描かれ方が魅力的だ。取材によるリアリティが存分に表われている〉、など、作品及び作家に対する評価が縦横に交わされた。
 原発を今どう描くかについての論議では、〈人々の心を突き動かす作品を創出するには現実に立ち全体像を掴む視点、そして、リアリズムの追求が重要である〉などの考えが出された。そのための手法にまで深めきれていないが、モチーフを大事にしながら書いていきたいと思うことができた、有意義な研究会だった。
 次回は五月十八日、「時の行路」に登場する弁護士のモデル、三浦直子弁護士を招聘する予定。『検証・原発労働』(岩波ブックレット)を元に、さらに深める機会としたい。ぜひ、ご参加下さい。
   
 
   (櫂 悦子)    

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