「労働者の現状と文学研究会」 (2011年7月)


   山形暁子 『女たちの曠野』の方法  
 
 七月二十二日、「山形暁子『女たちの曠野』の方法」と題して、宮本阿伎氏が報告。十一名が参加した。宮本氏は、まず作者のこれまでの文学業績を簡潔に紹介。続いて、作者がこの作品を書くにあたっての動機を次のように説明した。一部紹介。
 「全労働者の三人に一人が非正規という『格差と貧困』がクローズアップされる現状のなかで、大手銀行労働者の『コース別人事制度』だの、男女平等などを書いたからといってどんな意味があるのかという戸惑いもあった。様々な文献を読み克服したが、特に不破哲三さんの『社会進歩と女性─「女性の世界史的復権」の時代が始まっている』という論文のなかで、『ルールなき資本主義の最大の焦点になっている一つが、女性問題なのです』という文章に接したとき、目から鱗が落ち、構想が具体性を帯びてきたと作者は述べている」など。
 そして、一九五九年入行の「わたし」こと径子が自己変革を遂げるまでの六年間と、世代の異なる三人の女性の視点で描かれる六年間とが交互に展開する重層的方法について、「まさに大胆にして意欲的な試み」と位置づけ、「新しい方法をもって描いたからこそ、課題も含め、見えてきたものは多大である」「民主主義文学の成果である」と報告を結んだ。
 討論の中では「径子と聡美が生き生きと描かれている」「単行本になって、物語の進行過程がわかるので読み易くなった」「径子を『私』の視点で描いた点は成功している」など積極的評価の意見が出された。
 また、「径子と聡美を中心にして描いたら、良かったのではないか」「四つの視点で描かれているが、もう少し減らしても良かったのではないか」「芙由子と真樹の人物形象が、似通っている」などの意見も出された。
 最後に、作者の山形暁子さんから、取材過程での苦労話や「世代の違う人間像を描きたかったので、四つの視点にした」ことなどが、明かされた。
 そして、参加者から、山形暁子さんのいっそうの活躍と、次作を期待する旨の発言がだされて、久しぶりの「労働者の現状と文学」研究会を終えた。
  
 
  (井上文夫)    

「労働者の現状と文学研究会」に戻る