「近・現代文学研究会」 第113回(2011年1月)


   及川和男 「鶏は卵を生む」  
 

 近現代文学研究会は、一月十八日、及川和男「鶏は卵を生む」〔『民主文学』一九七一年九月号掲載、のち単行本『雛人形』(民衆社)に収録〕をテキストとして行われました。報告者は山形暁子さん。
 山形さんは、映画「いのちの山河」の原作者として知られる及川氏の経歴を追って、銀行勤務の傍ら、地方紙『岩手日報』の文学賞に入選したり、同人誌活動をしていたりしたことを紹介、この作品が発表されたときも銀行に勤務していたことを述べました。及川氏が銀行を退職したのは一九七六年だったそうです。
 「鶏は卵を生む」については、『民主文学』への二作目の登場の作品で、一九七〇年の漁港の町の銀行の支店を舞台にして、労働組合が分裂している中での、労働者の姿を描いたものだと、作品の概要を説明しました。そして、下宿で鶏を飼い、卵を生ませていた労働者が、病気で鶏が全滅する中で心を病み、死を選んでゆくという展開にそって、作者は予定調和を拒んだのであり、それを通して非人間的な当局のしうちと、その中での人間らしく生きることへのねがいを書こうとしたのではなかったかと報告しました。
 また、一九八〇年代末に文学同盟(当時)を退会したことにもふれた。
 報告を受けた討論では、〈銀行の実態がとらえられている〉〈「中間」の人を主人公にすることで描けたのではないか〉〈戦前のアカ攻撃と、この作品の労働者を分断させる攻撃とは本質的には同じではないか〉と、当時の銀行の労働の実態を描いたものとして評価しながら、〈今の合理化の進んだ労働の実態をどう描くのかはこれからの課題である〉と、今後の労働現場を描く作品のありかたについても意見が交わされました。  
 
  (岩渕 剛)     

「近・現代文学研究会」に戻る