「近・現代文学研究会」 第100回(2008年3月)


   高井有一 「北の河」  
 
 一九九一年九月、樋口一葉「にごりえ」(報告者・澤田章子氏)ではじまった近・現代文学研究会の例会が三月二十七日、記念すべき一〇〇回目を迎えた。日本文学の作家と作品(中心は短編小説)の研究を目的に、二ヶ月に一度、日本民主主義文学会事務所で定期的に開催されてきた。一〇〇人の作家とその代表作品一〇〇編がとりあげられたことになる。
 一〇〇人目の作家に選ばれたのは高井有一氏、作品は出世作「北の河」。報告予定者は平瀬誠一氏だったが当日ご家庭でアクシデントがあり、やむなく欠席となった。しかし、平瀬氏は報告内容を原稿化してあったため、それを同研究会責任者の澤田氏が全文を代読、それをもとに論議が行われた。
 「北の河」は一九六五年下半期の芥川賞受賞作品。戦時下、疎開先の東北(秋田県角館)で母親が入水自殺を遂げた顛末を息子である十五歳の少年の目で描いたもの。初出は『民主文学』創刊号と同じ六五年十二月号の『文学界』、同人雑誌推薦作として発表された。高井氏の作家歴を芥川賞受賞時をスタートとすれば『民主文学』と同じ年月となり、一〇〇回記念を飾るのに最もふさわしい作家だったといえよう。
 平瀬氏は原稿とともにレジュメを添え、作家の経歴や「北の河」の位置づけ、さらに、“ 「私」の母はどうして入水自殺を遂げたか”など論点を明確に示した。十五名の参加者からは、芥川賞の選考委員の評に戦争との関わりについての指摘がないことへの疑問が出されたほか、「北の河」を六〇年代の優れた作品として高く評価する声が多く聞かれた。
 なお、同研究会担当委員の井上通泰氏は一〇〇回すべてに出席、司会役などをつとめ、同会の持続、発展に貢献している。                 
 
   (鶴岡征雄)     

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