「近・現代文学研究会」 第98回(2007年11月)


   戸石泰一 『そのころ』  
 

 第九十八回の例会は、去る十月三十一日で没後二十九年になる戸石泰一氏(当時五十九歳)の『そのころ』(一九七一年)をテーマに選び、十一月十五日に文学会会議室で開かれ、六人が参加した。
 戸石氏は、文学同盟の創立に参加された人である。報告者の鶴岡征雄氏は、その当初から戸石氏の磊落な人柄に身近に接して来たこともあって、作家の人間臭さや人間的ぬくもりもあわせて伝えようとする熱いものが伝わってくる報告であった。用意された詳細なレジュメの中に報告者自身が撮影した一枚の写真。戸石氏の代表作『青い波がくずれる』の出版記念会、井伏鱒二など文壇の顔ぶれと民主文学の当時の面面が居並ぶ中ほどで、にこやかに懇談している戸石氏の姿がある。太宰の影響を受け文壇から出て、民主文学に参加した異色の経歴をもつ作家の印象的な場面の一枚である。
 報告は三期に分けてなされた。生い立ち、初期の短篇十篇、太宰への傾倒、軍隊、戦後の生活苦、定時制高校の教師。高校教職員組合の活動で病を得て引退後、その十八年の空白ののちに発表された第一作が『そのころ』である。
 そこには、作家小山清との太宰門下生同士としてのライバル意識、嫉妬、とくに御坂峠での太宰の文学碑建立の際の確執で怒りを爆発させる場面など、虚飾なく真っ正直に自身の心持ちを描いている。のち文学からも小山とも離れて生きて来たが、その生活体験の中で新しい境地に立って、小山の人物、作品の理解への浅薄さに気づき、その反省に立って、小山の短い生涯を(五十四歳没)追懐している戸石氏がいる。
 「すぐれた文学は、みな民主的である」という言葉を遺した作家。三十年余の歳月の流れは、現在この作家の作品を読む機会を少なくしている。参加者からは、再読できてよかった。また、早世を惜しむという感想が聞かれた例会であった。
 
  (長谷川綾子)     

『青い波がくずれる』 出版記念会 (1972年2月6日、東京・新宿)
「近・現代文学研究会」に戻る