「批評を考える会」 <2016年1月> 


  「社会主義的リアリズム」について


 第3回創造・批評理論研究会が、一月十五日(金)午後六時半から、文学会事務所で開かれ、谷本諭氏が「社会主義リアリズムについて」報告、十三人が参加しました。
 谷本氏は「社会主義的リアリズム」について、スターリン時代のソ連で提唱され、体制賛美を芸術家に強要し、表現の自由を奪った悪名高いスローガンになっているが、日本の進歩的文学運動のなかでは少し違った色合いでとらえられているとのべ、問題を整理したいと報告しました。
 谷本氏は、@スターリンはどういう意図で「社会主義リアリズム」を打ち出したのか、Aこの理論の導入がソビエトの文学に何をもたらしたのか、B戦後、この理論について宮本百合子と顕治が語っているが、二人の立場をどう見るか――という三点で報告しました。
 とくに@の点の報告が圧巻でした。強制的な農業集団化をスターリンが発令してから、農民の反乱や矛盾が噴出するなかで、国家や体制を美化するために、文学・芸術に介入し、勤労者の「思想改造」を作家の義務とするにいたる「社会主義リアリズム」の正体を明らかにしました。「農業集団化や5カ年計画で噴き出した体制的矛盾を覆い隠して絶対専制社会を確立する、『社会主義リアリズム』はその作戦の一環だった」と谷本氏は結論しました。
 Aについてはショーロホフが文学的批判精神を失い、体制の代弁者となっていく過程を通して説明しました。
 Bでは、「社会主義リアリズム」が日本で導入された経過にふれつつ、宮本百合子や顕治が「社会主義リアリズム」で探求しようとしたものと、ソ連の「社会主義リアリズム」とはまったく違うこと、百合子たちは本格的リアリズムの大道を探求したのであり、彼らの探求は私たちが受け継いでいくべきものだと述べました。
 討論では、ソ連の崩壊によってこれまで見えなかったものがみえてきた。われわれは全貌がつかめなかったから、幻想があった面もあるが、百合子、顕治はまじめに文学の理論の問題として考えたという発言などがありました。今後のリアリズム論の発展を考える上で大いに参考になる議論になりました。
 次回三月は乙部宗徳氏が霜多正次「沖縄島」をとりあげます。
   (牛久保建男)

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