「作者と読者の会」 2026年05月号



                  「作者と読者の会」

五月号の「作者と読者の会」は、四月二十四日(金)に、中村好孝「必殺技」、風見梢太郎「雪の松林」を取り上げて行われた。司会は岩渕剛氏。

 「必殺技」はたなかもとじ氏が報告した。たなか氏は作品の構成とあらすじを説明し、「障碍者の内面と施設職員との関係のあり方を描いている。障碍者や弱者と言われる人たちの心の中を、私たちはどれほど分かっているのだろうか。人間への尊厳、個性の尊重、人間同士の心からの理解はどうすればいいのかを、職員、利用者双方に問いかけている。むだのない筋運びに登場人物の内面のリアリティを感じた。テーマを鮮明に浮かび上がらせるエンディングがいい」と報告した。参加者からは、「健太がショートステイから帰ってきていつもの彼の姿になるところにホッとさせられ、感動した」「書きすぎていないところがいい。今いる施設とショートステイ先での健太の変化をどうみるか、これからの健太をどうしていきたかについても描いてほしかった」「健太の『必殺技』に職員が気づくところから、これからの健太につながっていくと思う」など出された。作者は「体験が九割。あるときから健太は全部分かっているのではないか、分かっていなかった自分を恥じた。彼の一見問題行動に思えるものが、彼の交流ツールであったのだと思えた。いつか彼をモデルにしてシンプルに描きたいと思っていた」とのべた。

 「雪の松林」については牛久保建男氏が報告した。牛久保氏は「継父の泰蔵を登場させる一連の作品の一つ。作者はこれまでくりかえし母と離婚した泰蔵への思いを描いてきた。血のつながっていない父への思いは通常の父子関係とは違うかも知れない。だからこそ泰蔵の生き方への共感が人間と人間の共感関係として説得力をもって描かれている。安定した文章力のハイレベルな作品だと思う。これまでは泰蔵を常に『私』か息子の『俊郎』から見てきたが、書き切れない思いを描くには、泰蔵自身の視点から描くことが必要となるかもしれない」と報告した。参加者からは、「文章もよく墨絵のような作品と感じた」「なぜ母は泰蔵と別れたのか、この作品だけではわからない」「文章が知的で、描写に引きつけられる。S夫人の場面が印象にのこった」など出された。作者からは「『泰蔵』のシリーズはこれで十作くらいになる。息子は母にとって全面的な存在だったが、継父の方にいってしまった。その点では、一般的な父と子の関係と違うものを書いている」とのべた。



                          (高野裕治)
   

 
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