「作者と読者の会」 2025年12月号

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                  「作者と読者の会」

 十二月号「支部誌・同人誌推薦作」の「作者と読者の会」は、十二月六日(土)に行われた。優秀作、入選作の全五編を取り上げ、選考委員がそれぞれ報告を担当した。十七人が参加。司会は乙部宗徳氏。なお、「おとうと」の荒木敏昭氏、「父への旅」の鈴木満氏は都合により欠席だった。

 「おとうと」は横田昌則氏が報告。横田氏は、「話の運び、構成がうまい。文章も分かりやすい。弟への思いがスーッと胸にしみこむように読め、全体的に温もりのある作品となっている」と報告。参加者からは、「読みやすく弟への情感が伝わってくる作品」「兄と弟の共通する思想的バックボーンがあるように感じられた」など出された。

 「父への旅」は工藤勢津子氏が報告した。工藤氏は「肉親が亡くなって初めて、切実な思い、さまざまな記憶をたどるのは、普遍的なテーマではないか。作品では思いがけない最後の父の言葉の謎解きをしながら、父が生きた思想信条の自由が侵害された時代をめぐり、主人公の生き方も確認する物語となっている。今忍び寄っている危険に対する危機感がこの物語を書く動機になっているのではないか。親子の生き方に関わる情愛ある重い作品となっている」と述べ、疑問に思われる叙述についても指摘した。参加者からは、「父の描写がもっとあってもよかった、その点の構成を考える必要があったのでは」「父親の姿は共感したが、やや長い感じがする」などの意見が出された。

 山下満昭「オレンジ帽のヘイさん」は乙部宗徳氏が報告。乙部氏は、「ヘイさんが平和案内人として、被爆体験を語るようになった過程を描き、被爆の体験、平和の大切さを世代を越えてどう伝えていくかを追求した作品。戦後八十年、被爆八十年、世代を越えた運動の継承の大事さを伝えるものとなっている。ヘイさんの半生を描いているが、一つの章の時間が長く説明が多い。どこか深く描く工夫がほしかった。モデルの人物がいると思われるが、作品は一人の人物として造形しようと努力していることが感じられる」と述べた。参加者からは「作者の人柄が分かるような文章がいい」「自分のことを書かれたと思っていたが、モデルがいて作品としたことがすごいと思った」「たんたんと書かれているが、心にジンとくる作品」など出された。作者からは「長崎支部の被爆八十年特集号に、人間ドキュメントにしようと思っていたが、思い切って小説にした。最後に大人になった少女と再会するところはフィクション」と発言した。

 浜田美鈴「パキラが枯れる前に」は牛久保建男氏が報告。牛久保氏は、作品に出てくる高度生殖補助医療についての基礎知識を最初に述べ、「科学が進歩する時代における生命の誕生という新しい問題に着眼し、仕事や恋愛に迷い、困難に向き合いながら成長する青年の姿を描いている。子どもを産むために当事者や支える人々がどう向き合っているのか、その一端に触れた作品で興味深かった。民主主義文学の中でも新しい人間の苦悩に触れた意味は大きい」と報告した。参加者からは「仕事とプライベートを交互に書いて、主人公の心の動きがリアルに伝わっていく」「人間とは何かという原点からの問題提起が必要だったのではと思う」など出された。作者からは「二十四歳の男性を主人公にしたので、問題提起に終わってしまったような気がしている。技術的なことで調べたことを書きたくなって、やや難しくなってしまった」と述べた。

 麻乃麻丹「残響」は担当の秋元いずみ氏が仕事で欠席だったが、文章による報告があった。その中で秋元氏は「母親の介護から看取りまで描かれている、重くなりがちな内容だが、作品にはあまりその雰囲気はない。ラストは軽やかですらある。作品中の曲が効果的である。介護の作品は最近多いが、介護者が四十代という視線の作品は多くない。新鮮さを感じた。長く感じる部分もあるので、絞り込んでもよかったのでは」と報告した。参加者からは「姉が効果的で、最後まで緊張感持って読ませる要因になっている」「介護小説だが、文章に元気があって、重い世界に入らず前へ進むところがいい」など出された。作者からは「支部の合評会では書き込み不足と指摘された。何を抽出し、どこに光をあてるか、どう書くのか書かないか、いろいろ悩んでこの形になった」と発言があった。

 終了後、表彰式がおこなわれ入選者に賞状が授与され、その後交流会をおこなった。
                          (高野裕治)
   

 
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