「作者と読者の会」 2025年10月号

youtube

                  「作者と読者の会」

 十月号の「作者と読者の会」は、十月三十一日(金)に行われた。取り上げた作品は、十月号から佐藤トラ「ギフトカード」と新木伸秋「刻をつなぐ」の二作品。十五人が参加。司会は乙部宗徳氏。

 「ギフトカード」は松本喜久夫氏が報告した。松本氏は物語と内容について述べたあと次のように報告をした。「コロナ禍の大阪を舞台に、維新政治がもたらした医療破壊を随所で指摘し、無理なく読者に知ってもらう表現になっている。主人公をはじめ、高齢者住宅で働く厨房リーダーや先輩の姿が生き生きと描かれている。タイトルにした作者の思いを生かすために、ギフトカードをめぐる場面を少し膨らませても良かったのではないか。否定的な存在の夫の描き方に疑問が残った」

 参加者からは「テンポが良くて、勢いのある小説。登場人物を少し整理した方がいいと思ったが、夫の姿はおもしろいと思った」「現場にいなければ書けなかった小説、今あの緊張感がなくなっていることを実感した」「あの時日本社会が受けた衝撃は何だったのか考えさせられた。夫は派遣切りにあい、母親を亡くした、その孤独感が出ているように思った」などの意見が出された。

 作者からは「コロナパンデミックは世の中が変わってきたきっかけのように感じた。文学教室で第一稿を書いたが、ドキュメントみたいで小説になっていなかった。それから改稿した。まだ推敲しなければと思っている」と述べた。

 「刻をつなぐ」は松田繁郎氏が報告した。松田氏は「けんろく支部誌『けんろく』に掲載されたこの作品は、支部誌・同人誌委員会で好評で推薦した」と述べ、以下のように報告した。「人間として生きることの大切さを問いかける小説。父と娘の会話、父と仲間の会話が批評性に富み、生き生きしている。日常生活の中に深い問いかけがある」と述べ、風見梢太郎氏の文芸時評、工藤勢津子氏の支部誌・同人誌評でのこの作品の評価についても紹介した。

 参加者から「北信越研究集会で三年前に読んだが、そのときは父親の視点で書かれ、やや重い感じがした。今回娘の視点にかえてすごくよくなった」「高齢者、障碍者の足である交通手段は大切な問題。現代社会の深刻な問題を描いている」「読み心地のいい作品だが、一方で矛盾や主人公の成長する姿も読みたいと思った」など出された。

 作者からは「娘の視点で親を書いてみたかった。次にバトンをどう渡すか、父の姿を見て娘がどう成長していくか追求してみたかった。矛盾や葛藤をどう書くか、今後の課題としたい」と述べた。
                          (高野裕治)
   

 
「作者と読者の会」に戻る