「作者と読者の会」
九、十月号の「作者と読者の会」は、九月二十六日(金)に行われた。取り上げた作品は、九月号から鬼頭洋一「母を看取る」と十月号から最上裕「アイン」の二作品。十人が参加。司会は乙部宗徳氏。
「母を看取る」は工藤勢津子氏が報告した。工藤氏は「主人公・町田雄一が母親の介護、看取るまでのほぼ一年間の物語。力まず平易な文章、自然な筆運びで、最後まで一気に読ませる。母親の変化の過程を詳細に具体的に描き、説得力のある物語になっている。雄一夫婦が母親の意志・希望を尊重して事を進めたこと、雄一が介護を妻に押しつけることなく積極的に関わっていたことで、全体に暗さを感じさせない作品となっていて、読者は好感を抱いたのではないか。登場人物のそれぞれの思い、心のひだ、葛藤などがもう少し描けてあれば、さらに味わい深い作品となったように思う」と報告した。
参加者からは「心にしみる作品。母親の最期の場面『母はおだやかに眠っている』が自然でよかった」「息子が介護の中心をになっている小説はあまりなかったと思う。これまでの親子関係が彷彿されるようで良かった」「うらやましい最期で、幸せなお母さんだったのではないかと感じさせられた。記録的によくまとめられている」などの意見が出された。作者からは「詳細な介護日記を書いていて、それをもとにまとめてみた。そのせいかやや平板になったり、事柄は書けたが、人間像が不十分だった」と述べた。
「アイン」は風見梢太郎氏が報告した。「現在民間の開発機関などにおいて重大な事態を引き起こしつつあるセキュリティ・クリアランス制度を扱った作品。二五年五月に施行された『重要経済安保情報保護活用法』により民間人も広く対象となり、深刻な影響が広がりつつある。マスコミであまり報道されない事態を、小説で登場させたことは『民主文学』の面目躍如たるものがあるのではないか。現在のガザの惨状に強く抗議の声をあげた作品としても評価される。この問題は今後ますます深刻化すると思われるだけに、最上氏が切り開いた端緒を受け継いでいかなければならない」と報告。
参加者から「きわめて現代的な思想攻撃の問題を描いていて感心した。専門的なところが難しいところもあった、もう少しわかりやすくならないか」「こうした問題をどう取り組んだか、創作過程が知りたい」など出された。作者からは質問に答えながら「私が勤めていた企業は、今軍事予算が増えて、防衛省からの仕事が倍以上に増え、管理職はウハウハしている状況。イスラエルとの軍事技術の共同研究も進んでいる。戦争への動きがひたひたと迫っていることを実感する」と述べた。
(高野裕治)
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