「作者と読者の会」
八月号の「作者と読者の会」は、七月二十五日(金)に行われた。取り上げた作品は、松本喜久夫「闇にいる蕾」と大浦ふみ子「父よ馬よ」の二作品。十三人が参加。司会は乙部宗徳氏。なお大浦氏は都合により欠席。
「闇にいる蕾」は柴垣文子氏が報告した。柴垣氏は登場人物、物語の内容を説明した後、作品について、「牧野裕三と若田まゆみが試練を乗り越えて、ともに新しい人生を踏み出す過程を捉えた作品。多様な川柳が現実を映し出し、生き方を探り、広げていく様子が活写されている。わけても、若田まゆみの決断力のある、新しい生き方を模索する女性像の造形がよく描かれている」と述べた。
参加者からは、「タイトルに創作意図がよく表されている。それだけに最後の四行はタイトルの説明的になっていて、なかった方がいい」「たたかっている人たちをはげます作品。鶴彬もうまく使われている。裕三がまゆみに心をふるわせたのか、そこの気持ちの表現がないのが少し物足りない」「裕三が子どもを引き取るところの葛藤や決意がもう少しほしかった」などが出された。
作者からは「これまではストーリーをつくってそれに沿って書いてきたが、今回は書き出しは決まっていたが、その後はあまり決めずに、裕三に引きずられるように書いていった。初めての経験だった」と創作の過程が語られた。
「父よ馬よ」は能島龍三氏が報告。能島氏は作者が書きたかったこととして、「被爆の実態を、世界の紛争下を生きる若者や自らの孫の世代に生命ある限り伝えていこうとする、被爆者の反核・非戦の思い。被爆死した父親の記憶とともに成長してきた被爆者の、全世界に向けた強い反核・非戦の願い」にあるとした。また「重く大きなテーマに怯むことなく正面から向き合っている。長崎在住のジャーナリストという作者の立場を生かして、被爆者運動の現在から地域の歴史の細部までをよく調べ想像力を働かせ創作に生かしている」点などは作品から学ぶべき点とした。
参加者からは「被爆の問題に果敢に取り組んでいる作者の姿勢に敬意を表したい」「被爆問題を今日にどう伝えるか、見るべき作品になっている。被爆の体験を、命を削って取り組んでいることに、改めて実感させられる」「父親との会話は創作意図は理解できるが、もう少し工夫が必要ではなかったか」など出された。
(高野裕治)
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