「作者と読者の会」 2023年12月号



 十二月九日(土)に開催された作者と読者の会は支部誌・同人誌推薦作として入選された六編を取り上げた。参加者はオンラインを含めて二十四名。司会は乙部宗徳氏。

 まず「すべてを受け入れて」を仙洞田一彦氏が報告。全体的に無理のない展開となっており、読みやすかった。すべてに向き合って生きているともいえる主人公の姿勢が印象に残ると指摘。参加者からは「企業でともに闘ってきた仲間が私生活を支えてくれる姿が重要」などの意見が出された。作者からは「今回初めて妻のことを書いた。娘の出産で希望が出せると思った」という発言があった。

 「母と高岸先生」については須藤みゆき氏が報告。情景描写だけで君子の思いが描けている点などを取り上げた上で「古さを感じさせないのはテーマに普遍性があるからではないか」と指摘。参加者からは「少女時代のことをいきいきと描いているのはすごい」「懐かしさを感じた」といった意見が出された。作者は「創作専科に出し意見を貰い、それをもとに推敲した。男中心の家庭の中での母を見てきた。そんな母とは違う生き方を高岸先生が示してくれた」と語られた。

 「靴屋のゲンさん」については能島龍三氏が報告。レジメをもとに作者が何を書こうとしたのか、それが読者の胸に届いたか、分析し、その上で「人物がよく描けており、ラストシーンには目頭が熱くなった」と語った。
参加者からは「ゲンさんが靴を扱う場面が上手く描かれていた」「自然描写が美しい」などの意見が出された。作者は「当初、掌編小説としてゲンさんの人柄だけを書こうと思ったが、私自身のことも書くことでゲンさんの奥深さが描けるのではと思った」と創作過程を述懐した。

 「この町に生きる」については松田繁郎氏が報告。共産党議員と力を合わせていくストーリー展開は読者に勇気を与えると評価。松田氏は六角川が特定都市河川として九州で初めて河川対策ができるようになったことも後日談として紹介した。参加者からは「作者の思いがひしひしと伝わってくる」「主人公と奥さんとの関係がいい」といった意見が出されました。また同じ支部の方からは「誰よりも早く原稿を提出する」といった作者の文学運動に対する積極的な姿勢も語られた。作者からは「六角川は十角にも二十角にも曲がりくねっている。歳を忘れて活動せざるをえなかった」と自身の活動を振り返る発言があった。

 「スーパーさかもと」は能島龍三氏が報告。仲間とともに楽しく働く職場を通して、人間らしい生活とは何か、人間の生き方について問う作品となっている、と述べた上で「短編はいかに書かないか、いかに無駄を削ぎ落すかが勝負」という言葉を思い浮かべた、と語った。「更年期を乗り越えろ!」は松田繁郎氏が報告。作品全体にそこはかとないユーモワがあり、良かったと語り、ボーヴォワールも描いていない面白さと評した。なお、この二つの作品については両作品とも作者は欠席のため、作者の言葉は聞けなかった。

 最後に能島龍三会長より入選者に対し、オンラインの画面越しに賞状が授与された。このとき画面は二分割になり、賞状を渡す能島会長とそれを受け取る入選者が並んで映し出され、参加者から拍手が起こった。
                            (横田昌則)
 
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