「作者と読者の会」 2023年09月号



 九月二十九日(金)におこなわれた「作者と読者の会」は、九月号の塚原理恵作「丸刈りの少女」、十月号の黒田健司作「母の料理ノート」をとりあげた。参加者はオンラインを含め八人。司会は乙部宗徳氏。

 「丸刈りの少女」については横田昌則氏が報告をした。横田氏は作品の構成を節目ごとにたどりながら、「大軍拡が進むなかで、戦争の記憶をどう語り継いでいくのか、とりわけ加害の記憶をいかに伝えていくか、その大切さを感じさせる作品。語り継ぐことは簡単ではないが、責務の重さを感じさせる」と報告した。

 討論では、報告にあった軍拡に突き進もうとする今の時代のなかで、加害の問題を記録し、語ることの重要性が一様に語られた。また、紀行文、記録と小説の違いについても意見が交わされた。

 作者からは「旅行記かルポか迷いがあったが、自分の思いを書いて小説にしたかった。また、地元では戦争の記録を残そうという動きがあるので書いておきたかった」と語られた。

 「母の料理ノート」については牛久保建男氏が報告。黒田氏の前作新人賞佳作作品「忘れ物はありませんか」は父と息子、今回は母と息子という設定。作品の主題は「母親の無私の愛情、料理に込められた人間の誠実さではないか。その点で料理の場面はていねいに描かれている」と述べた。

 討論では、「前作と大枠は同じように思われる。二作品とも親子の関係を探ろうとした作品になっている」「コロナが五類になったが、忘れてはならないことが書かれている」「主人公の恋人の奈都の出し方がうまいと思った」「主人公の店がコロナ禍で閉店しているが、病院に料理を届けるボランティアをする財政的にどうか」など出された。

 作者は、「母の遺品を整理していたら、料理ノートが出てきた。それをきっかけに、母の愛情と料理を主題にして書いた。今を書くときにコロナの問題は欠かせないと思って設定にした」と語った。
                        (高野裕治)
 
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