「作者と読者の会」 2023年05月号



                  「作者と読者の会」

五月号の「作者と読者の会」は四月二十八日(金)に、杉山成子「デリヘル嬢になれますか?」、井上通泰「離郷」を対象に開かれた。参加者はオンラインを含め十二人。司会は牛久保建男氏。

 「デリヘル嬢になれますか?」について、松田繁郎氏が報告をした。松田氏は「現代の貧困と格差が拡大する状況のもとで、性風俗や性搾取などタイムリーな問題提起をしている作品」と冒頭のべ、作品の概要を説明した。そして「派遣型ファッションヘルスと呼ばれる職業は、警視庁管内で、二千を超える店が登録されているが、これをどう捉えるか」と提起し、マルクスやエンゲルスなどの売買春に関する言明や、貧困に苦しむ女性を民主主義文学はどのように描いてきたかを小林多喜二の視点などを紹介した。

 討論では、「貧困がすさまじく広がっているなかで、現実の一端を捉えた作品」「貧困と性風俗の問題が真っ直ぐに結びつけているところが特徴。貧困問題での主人公の葛藤が書き込まれていれば、さらによくなってのではないか」「文章に歯切れ良さとリズムがあって、登場人物が生き生きと描かれている。これまでにはなかった作者の文体になっている」などの意見が出された。

 作者は、風俗で亡くなった女性がいて問題になったが、それをきっかけに取材を始めた。今の貧困は十八世紀に匹敵するといった人がいたが、一方で今はそれが見えにくくなっている。社会の構造が作り出している、と語った。

 「離郷」につては仙洞田一彦氏が報告。仙洞田氏は「登場人物の関係を理解することで、作品世界が見えてくる」とし、主人公の裕治と継母のハル、ハルの実子と裕治の兄妹たちとの関係を説明した。そのうえで「ハルの孤独感や登場人物の間の距離感、感情がよく描かれている。複雑な感情を抱きながらも、ハルの人生最期をよりよくしようと努力している家族像が描かれている」と報告した。

 討論では、「日本の地域社会とか家族は独特なものがあることを感じさせる」「家が壊れてゆく、一族が空中分解していくような過疎化の問題が描けている」「ハルのことを、なんだかんだいっても心配してくれる子どもたちがいるのにほっとさせられた」などの意見が出された。

 最後に作者は、連作として、二〇一一年から七編約三百五十枚書いた。島崎藤村の「家」が念頭にあり、家が解体していくだけでなく、村や地域も疲弊していく今の姿を書いてきた、と語った。
                      (高野裕治)

 
「作者と読者の会」に戻る