「作者と読者の会」 2020年9月号



                  「作者と読者の会」

九月十八日(金)、九月,十月号掲載作品の「作者と読者の会」が、ZOOM参加十一人、事務所での参加三人で行われた。司会は牛久保編集長。

 はじめに木曽ひかる『末摘花』(十月号)を工藤勢津子氏が報告。ある少女の家族が巻き込まれた戦争を少女の目を通して見つめ、戦争が庶民の暮らしにどのような苦難をもたらしたかを記した。古典文学を研究している父親が、不当に拘束され暴力的な圧力を受けながらも、心の中までは変えられない、自由だと伝え、『末摘花』を例えにして母のように物事の本当の姿をよく見つめることが大切と少女に伝える物語である。

 参加者からは、作者の実体験ではない多様な題材に挑戦してのこれまでの創作姿勢を称え、この作品もまた、戦争を子どもの視点から描くという困難に挑み、登場人物をそれぞれ生き生きと表出して深い感動を与える読後感の良い作品である。文章が分かりやすいなどだされた。

 作者からは、現在のきな臭い世情に危機感をもち、ある農村のリベラルな家庭で家族がそれぞれにどのように戦争に巻き込まれていったかを、子どもの視点で描いたが、指摘を受けたように、子どもの立場で書くことの難しさを強く感じたとあった。

 青木資二『オンライン』(九月号)について笹本敦史氏が報告。新型コロナ感染症による外出自粛が、社会的弱者にもたらす困難を、二人の小学生を育てているダブルワークのシングルマザーの家族を通して描いている。タイトルがオンラインだから、オンライン授業の様々な問題点と、貧困の絡みなどやや消化不良の感じがした。

参加者からは、まさに今進行中の問題を、格差と貧困と絡めて描き出そうした意欲作であるが、視点人物である母親像の掘り下げが欲しかったなどだされた。

作者は、財界の意向を汲む教育の民営化とコロナ感染症対策の中で、推し進められようとしている「オンライン授業」について問題提起したかったが、確かに時間が足りなかったとあった。

         山下敏江

 
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