「作者と読者の会」 2020年7月号



            初のオンライン「作者と読者の会」開催

 新型コロナウイルス感染拡大により、一月に開催して以来四カ月間休止していた「作者と読者の会」を、六月二十六日(金)に初めてZoomを使ってオンラインによる開催をした。北は北海道から南は長崎五島列島まで十四人が参加した。オンライン開催ならではの広がりを感じた。
 取り上げた作品は、七月号の中村恵美「光のきざはし」を青木陽子氏が報告、たなかもとじ「乳房」を能島龍三氏が報告、司会は牛久保建男氏。
 「光のきざはし」について青木氏は、「漆の仕事にかかわる家に生まれ、伝統を受け継ぐことを意識し、生き方を探る主人公の姿を綴っている。特殊な世界であるが登場人物は謙虚で誠実で、人が手探りで生きることへの真剣さが共感できる。大きな位置を占めている漆掻き職人である祖父が魅力的に描かれていて、作品の質を上げているとしたうえで、父親が突然漆の仕事を継ぐ決断をするところは唐突な感じがする。それによって、主人公の悩みがなくなったようになり、せっかく提起された問題がはぐらかされた終わり方になってしまってはいないか」と報告。
 討論では、「祖父の生き方、働き方の表現、描き方がいい」「漆の森の情景が浮かんでくるような表現が生きている」「父親が漆掻きの仕事を受け継ぐところは、唐突に出て来る。別の解決策を探究する方がよかったのではないか」などの意見が出された。作者から漆掻きの写真などが資料として提出され参考になった。「地元の漆産業のことをこれからも書き続けていきたいと考えている」と発言があった。

 「乳房」について能島氏は、「思春期に差し掛かかった少年が、厳しい労働や友達との交流、父母や人々との関わりを通して、人間として学び成長する姿を描いた。みずみずしい感覚で少年期の成長を描いている。方言が生きているところもいい」と報告。

 討論では、「土の匂いがする小説を久々に読んだ。母親の像が生きている」「朝鮮人や父親の問題、貧困の問題などを、個人の問題ではないととらえる母親の姿がいきている」との感想とともに、主題について、朝鮮人や貧困問題か母親への思いなのか意見が分かれた。「なぜいまこれを書くのかが作者のなかに必要ではないか。主題のとらえ方が分かれたのは、そこがはっきりしていないからではないか」などの意見が出され、作者は「自分がどう生きてきたかを原点にかえって見つめてみたいと考えた。まわりや社会との関係などの変化も交え、どう生きてきたかを探りたいと思う」と語った。

 Zoomを使っての会への参加は簡単にできるうえ、全国どこからでも参加もできる。ぜひ多くの方の参加を期待したい。
                                            (高野裕治)

 
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