「作者と読者の会」 2020年1月号



            作者と読者の会

 一月二十四日(金)、田本真啓「メトロノーム」(一月号)、工藤勢津子「墓地に吹く風」(二月号)をテーマに、牛久保建男氏の司会で、スカイプを含め十名の参加で行われた。

 「メトロノーム」について報告者能島龍三氏は、全体としてとてもいい作品であり、青いメトロノームを壊した悠人の胸の中にある固有のメトロノームを大切にという先生の教えが、周囲に惑わされず自分の信ずる道を行けというだけでなく、金田君とのエピソードを通じて誰の胸にも大切にすべき固有のメトロノームがあるということまで示唆しており、さらには、金田君も同じ人間だという気づきをもたらしたように感じられて印象深いと指摘しつつ、だとすれば、結末も明示的にその主題に収斂させて行く必要があったと述べた。

 討論では、書簡の形式をうまく使っている、金田君のエピソードは、貧乏でゲームソフトも満足に買ってもらえない金田君の悲しみに迫るものとして描いてほしかったなどの意見が出された。
 作者(スカイプ参加)からは、他者に過度に共感した結果自分が解らなくなる不安があり、自分のペースや考えを守りながら書くことを大切にしたいと思って書いたが、金田君のエピソードを入れたため内容的にバラバラになってしまったと発言があった。

 「墓地に吹く風」について報告者澤田章子氏は、本作は、母の死の報告を兼ねて燈子が訪れた北海道岩内の丘の上の母方祖父の墓前で、この旅で再会し消息を知った母方の叔父らの姿や、叔父叔母や祖父が戦時を生きた人生に思いを馳せつつ、それにつながって今日を生きる自分の立ち位置を再確認する作品であり、五章構成のうち祖父像は第三章で燈子の母佳乃の視点で書かれたことが巧みであるうえ、人物像などの表現の豊かさに円熟を感じると指摘した。ただ、回想の舞台があちこちに飛び、人物も多くてやや繁雑な点、「あとは自分ひとりの生き仕舞いをするだけだ」と考えていた燈子が、回想を経て「ちょっと生き方を変える」境地へと変化した姿の印象がやや物足りないという指摘があった。

 討論では、第三章の構成上の適切さ、文章表現の豊かさの指摘が相次いだ。また、この作品は何を言いたいのか不明だとの指摘が出た一方で、情景が目に浮かぶしっとりとした読後感があればそれで良いのではないかという意見も出された。

 作者からは、戦争を知らない世代だが、もし父が戦争に行かなかったら、青森の家が焼けなかったらなどとずっと思っていたので、戦争の時代をこうした形ででも書けるのは自分たちが最後ではないかという思いで書いた、という発言があった。              (松井活)

 
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