「作者と読者の会」 2019年12月号



            作者と読者の会

 二〇一九年十二月七日、支部誌同人誌推薦作の優秀作と入選作の「作者と読者の会」が民主文学会事務所で開かれた。

 渡部唯生「歴史の吐息」について久野通広さんより、「歴史的なリアリティの問題で評価が分かれたものの、戦前と戦後の統一戦線をつないでいく構成に注目した」と報告された。参加者からは、「何を問題提起しているのか分かりづらい」、「ファンタジーとして描かれる教会と、国会前の闘いをどうつなぐかが課題」などの意見が出された。作者は自身がプロテスタントの信者であり、「人と人をつなぐものは理論だけでなく感情的なものでもあるのではないか」と述べた。

 田中雄二「夕焼けの学校」について松井活さんが、「新人教員の苦悩がリアルに描かれており、教育現場をゆがめているものは何かをさらに追求されると良かった」と報告された。参加者からは、「新人教員が悩みながら成長する姿がよく描かれている」、「どのような学級だったのかをしっかり描くと良かった」などの意見が出された。作者は、「現場では教師が一人ひとり孤立して現実はもっと厳しい」と話された。

 松浦佐代「鉄砲百合」について櫂悦子さんが、「テーマを意識して、母はどんな生き方をしてきたのか、なぜ母が好きなのかを書き込まれると良かった」と報告された。参加者からは「母の姿がよく描かれている」「幼い守の死が受け入れられなかった主人公の気持ちに共感できた」などの意見が出された。作者は「自分は不幸だと思っていたが、守の方が不幸だと思って書き入れた」と述べた。

 馬場ひさ子「冬芽」について風見梢太郎さんが、「祖母の立場から、孫のタケルの微妙な変化をとらえており、場面で描いていない部分もあるが全体に漂う文学性を感じた」と報告された。参加者からは「猫の場面が生き生きしている」「学校教育の問題や、娘夫婦の問題が関係している」「ネットを通じた人とのむすびつきが現代的」などの意見が出された。作者は「現実に直面している問題だが、明るいストーリー展開を意識して書いた」と語った。

 福田かじ郎「プロレタリア文学の気概―鶴彬・小林多喜二・葉山嘉樹―」について風見梢太郎さんが、「プロレタリア文学を小説だけでなく、川柳や俳句なども含めて論じたところが新しい視点だった。評論としては論点を絞って書いた方が良かったのではないか」と報告された。参加者からは「プロレタリア文学案内として面白く読めた」「評論にもどんな形があっても良い」「主題を追求されると良かった」などの意見が出された。

 牛久保建男編集長の司会と二十四名の参加者(うちスカイプ参加二名)で盛会となり、終了後、受賞式と組織部主催の「入選を祝う会」が同会場にて開催され、作者から喜びにあふれる挨拶や今後への決意が語られた。
                                          (橘 あおい)

 
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