「作者と読者の会」 2019年9・10月号



            作者と読者の会

 九月二十七日は九月号野里征彦作「蛍火」と十月号東喜啓作「手かさぎの感触」を取り上げ十四名参加で行われた(スカイプ一名)。

 はじめに最上裕氏は「圧倒的な敵戦力の前に士気の低下した敗軍の描写には臨場感がある。天皇制に疑問を持ち、白い手拭いを大事に捕虜となって、自分の運命を切り開きたいと考えた柳田は新鮮だが、軍国主義化の日本で、こうした思想を持つことは難しいし、そうした発想は新しいと思った」と話された。

 参加者からは、「方言が生きている、苦境で生きるということと方言が結びついている」という感想とともに、「脱走兵の緊迫した心理状態があまり感じられない」という意見もだされた。若い人からは「緊迫感のことでは、違和感を感じなかった。場面を立ち上げて書くと言うことの大事さがわかった」などの意見、また作品を描く視点の問題での議論がかわされた。

 作者からは三歳で中国から引き揚げ、戦争の匂いは多少知っている。想像の世界で兵士と同じ目線に立ってみたいし、読者にも立ってほしいと考えた。歴史を描く場合、論文だけでなく体験者の証言が大事だという話があった。

 「手かさぎの感触」では工藤勢津子氏は「徳之島の風土に愛着を持って描いていて、独特の雰囲気を醸しだしている。島唄と三線の掛け合いは魅力的で、若い男女の淡い恋愛に重ねている。読後感も爽やかでやや、物足りなさを感じたがよく描かれていた」と述べた。

 参加者からは「彼の島への愛着が伝わってくる」「離島にすんでいるので、結構リアリティを感じた」「主人公の揺るぎない姿勢が新鮮」「主人公が物わかり良すぎる青年として描かれているため、葛藤がないのが物足りなさにつながっているのでは」などの意見もあった。

 作者からは島を出る若者が多い中で、残る人たちの真摯な姿を描きたかったし、青春小説としても読んで欲しかったと話された。
                                       (北嶋 節子)

 
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