「作者と読者の会」 2019年5月号



            作者と読者の会

  四月二十六日(金)、田本真啓「キングゴリラ」(五月号)、山形暁子「軍艦島へ」(同)をテーマに、宮本阿伎氏の司会で、スカイプを含め十二名の参加で行われた。

 「キングゴリラ」について報告者乙部宗徳氏は、レジュメに沿って、まず稚拙な子どもの絵を不釣り合いに立派な額に飾っている主人公龍之介の部屋の描写からその謎解きのように過去が回想される構成に本作の特徴があると指摘、発達障碍が疑われる絵の描き手遼一との間の壊れた関係が回復して行く過程に、職場の苦手な上司佐野いずみの人柄が明らかになる過程を重ねて描いた作品であり、小学校時代の教師のひどい仕打ちから劣等感を植え付けられどこも自分の居場所と感じられない龍之介が、ついに居場所を見出した幸福な結末が印象的に描かれていると指摘した。ただ、遼一の頬を叩いた龍之介が自分の矛盾に気づく描写で、戦争加害をあえて重ねる必要性は乏しいのではとの付言があった。

 討論では、回想に入る冒頭部分の必要性を支部で議論して納得した、やりがちなディテールの書き込みを抑制しつつも臨場感あふれる描写をまとめていて感心したなどの意見が出された。

 作者(スカイプで参加)からは、身を縛りつけている社会性の枠を取り払って自分を発見させてくれた、子どもとの関わりの実体験をベースに描いたとの発言があった。

 「軍艦島へ」について報告者工藤勢津子氏は、詳細なレジュメに基づき話の展開を追いながら、本作は、単なる「軍艦島」見物旅行記ではなく、日本がかつて朝鮮や中国に対して行った侵略・非人道的な蛮行、現在に及ぶ日本政府の立ち位置などを見渡しながら、韓国との外交関係の現状や野党共闘など今日的な社会情勢と噛み合ったテーマを、M文学会内部で厳しく対立した岩城との関係修復にかけた主人公の熱い思いを基礎に、リスペクトを持った対話による解決の視点で深く追求した力のこもった作品だと述べた。その上で、端島の世界遺産登録の経過や朝鮮人労働者との関わりなどはあまり知られていないので、書くべき意義のある作品だと評した。

 討論では、端島の世界遺産登録を巡る経緯や強制労働の事実、日本政府の意図を知って勉強になったという感想が口々に出された一方で、文学団体内の対立解消と国家間の対立の修復とを同列に論じられるのかという意見や、作中で紹介された日本政府の端島世界遺産登録に関する意図や朝鮮人強制労働に対する態度は、事実とは異なるのではないかという意見も出された。

 作者からは、本作はかなり長い作品を苦労して削ったもので、モチーフとしては岩城との対立解消にウェイトがあったが、それが不鮮明になったかも知れないという発言がなされた。
                                              (松井活)
 
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