「作者と読者の会」 2019年4月号



            作者と読者の会

 文学会事務所前の桜が満開のもとで本誌四月号の「作者と読者の会」が開かれた。大浦ふみ子「こん畜生」を山形暁子さん(牛久保建男さんが所用で交代した)、風見梢太郎「雑木林を抜けて」を仙洞田一彦さんが報告した。出席者は、スカイプでの参加一人を含めて十人。司会は宮本阿伎さん。

 「こん畜生」の報告は、作者紹介から始まり、今作の位置づけ、評価に及んだ。一九六一年より二〇〇二年迄長崎放送局で働きながら書き続け、現在に至る作者には十数冊の著書がある。原爆、佐世保、自然災害、マスコミで働く現場など多岐にわたる作品系列の中で、長崎の造船所で働く労働者への関心は初期から強いものがあった。じん肺で苦しみぬいて死ぬ一歳年下の友との永別を発端として描いた友情物語のうちに、一九六〇年代半ば程からの造船所のたたかいを浮かび上がらせる今作は、その集大成と位置づけられる、時系列通りではない独特な描き方が功を奏しているなど報告された。
 討論では、思想差別のあり様に憤りを持った、自身の職場の闘いの来し方を振返らせた、人物を二人に絞ったところがよい、軍艦を作っている職場を描いている意義を感じたなどの感想が出された。

 続いて仙洞田さんが「雑木林を抜けて」について報告された。会社はリベラルな組合を敵視し、その転覆のため様々な策を弄して、遂に目的を達したとあるように、この作品には職場(研究所)の反共攻撃の凄まじさが随所に描かれている。その中で主人公横山俊郎は新聞「赤旗」を購読する。横山は初め左近から日曜版を勧められるが日刊紙がよいと断っていた。その理由は日刊紙を読みたいわけではなく、配達が困難だと分かっていたからだ。今度は案に相違して左近は日刊紙を勧めた。横山は日刊紙ならいいといった手前、購読を断れなくなる。こうした購読の決心が安易に感じられた。なぜ困難、危険、将来への不安を乗り越えて「赤旗」を読む必要があるのか、横山自身の問いかけがあって購読への決意に至る展開が欲しかった、などと報告された。
 参加者たちからは、この小説に共感を覚え、それぞれの若き日の活動上の困難、葛藤、打ち克ってきた道程などを振返る発言が相次いだ。作者からは、かつてシニア文学サロンに参加された著名な会社の重役の方が、色々と苦労してずっと「赤旗」を読んでいたと語っていたことがヒントになってこの作品を書いた、これから暫く、表に立てず志を持ち続けた人を書いていきたいと、動機と抱負とが語られた。     
                                           (坂田宏子)
 
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