「作者と読者の会」 2019年3月号



            作者と読者の会

 二〇一九年二月二十二日文学会事務所で、本誌三月号の杉山まさし「ためらい」と青木資二「陽光」について、作者と読者の会が行われた。司会は宮本阿伎氏、参加者は十七名、スカイプ参加が一名であった。

 「陽光」について報告者・能島龍三氏は、学力テストの悪影響がよく捉えられており、教育問題を様々な切り口で描いてきた作者の仕事の貴重さを感じるが、体育会系教師の典型である高岡が簡単に変容していくことに違和感を持った、作者は作中で、設定した人物を設定した性格として生き直さなくてはならないのではと指摘した。
 討論では、読みやすく問題提起もストレートだが、その単純化が欠点かもしれない、現場はもっと複雑、子ども達のサッカーの場面がいい、管理職側を悪人に書いていない、「子どもたちのため」という言葉が感動的、子ども達がなぜ変わったのかがわからない、教育問題は背景にして、小さな所に焦点をあてる方がいいなどの意見が出された。
 作者は、現代の教師の苦悩を描こうとしたが作者の主張が強いといつも言われてしまう、教育現場は短編では難しいかもしれないなどと語った。

 「ためらい」について報告者・櫂悦子氏は、天災と人災の違いはあっても、それを受け止め心に残された哀しみや喪失感に焦点をあて、他者に寄り添う中で、再生への道を開いていくことを描いた。状況、時などがもっと早く分かりたい、麻子の像を浮かび上がらせるためには喪失の中身を詳しく描くべきでは、など四枚に亘る詳細なレジメに沿って報告した。
 討論では、全体が淡い展開で色彩が濃くなるのはラストの子どもが指を握る場面のみ、推理小説的作りか、読みにくいが作者の意図を感じるしそういう小説もあっていい、心象風景を描いた、構成や文体が独創的、麻子のゆらぎ、ためらいがバスの揺れに象徴されている、もう少し訴えたいものがあったのでは、大きな作品になる手前という感じ、視点は「彼」では、など意見が出された。
 作者は、今日これほどの多彩な意見が出る、だからこそ人間はおもしろく人間を追求したい、子どもが指を握ったという投書を読んだことが、書くきっかけになったと語った。多様な意見交換ができた作者と読者の会であったが、その余韻でその後の懇親会も大いに盛り上がった。                                             
                                            (三原和枝)

 
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