「作者と読者の会」 2018年9・10月号


            作者と読者の会

 九月二十八日、午後五時半より文学会事務所で開催。九月号から川本幹子「びわが熟れる頃」を乙部宗徳氏が、ゆいきみこ「祝い日」を風見梢太郎氏が、十月号から渡部美次「ソウルの人たち」を能島龍三氏が報告した。
 「びわの熟れる頃」について乙部氏は、強制性交によって子どもを産んだ母・奈美子が、故郷を出て、一人で子どもを育て、二十歳の誕生日に娘の亜矢に出生の秘密を打ち明ける。母親に嫌われてきたと思っていた亜矢の疑問が〝謎〟として提示され展開されるが、なぜ、今告白しようと思ったのか、それを聞いた娘の思いがどうなのか、これだけの枚数で書くのは無理があるのでは、と報告。
 参加者からは、読者を飽きさせない展開になっているが、なぜ産む決意をしたのか、レイプを告発することと、出生の秘密を知る娘のショックは次元の違う問題である等の意見がだされた。
 作者からは、重い題材をどう扱うか十分に練られないまま書いてしまった。娘の視点で掘り下げられていないことがわかったので、次の作品に生かしたいと述べた。

 「ソウルの人びと」について能島氏は、主人公の私は、企業と労働者、言論と差別、日本と韓国の歴史などいろいろなことを考え、自身の生き方を見つめ直しているところが良い。テーマは、日本の植民地支配やその後の軍政との闘いなど、韓国の歴史や文化を学ぶことなしに、韓国の人々との真の交流はできないことにある、と述べた。
 参加者からは、半導体のこと生産現場の内容がもう少しわかりやすくして欲しい。ヘイトスピーチの横行など時代を描いた小説して読んだ。
 作者は、初めての小説であり、仕事で韓国にいったことが自分を見つけることになった、と発言した。

 「祝い日」は風見氏が報告。結婚五十年を迎えた仲の良い夫婦の姿が、夫の航平の視点からさわやかに描かれている。当時の職場における共産党員への攻撃、作業長が結婚式前日に家に来て両親を「説得」しての切り崩しが生々しく描かれていて、歴史の証言としても価値がある。だが藤原作業長からの「寸志」を受け取るという設定はどうなのか、と述べた。
 参加者からは、藤原作業長、両親の様子がよく描かれている。同時に、「五十年」の重みが伝わりきらないとの意見が出された。作者からは、実際に夫の両親が「説得」に動じなかったことはすごかった。「寸志」は、最初は返すという設定だった、と述べた。
 作者が大阪、長野、福島から駆けつけ、スカイプでの参加は福岡、長崎と地域的にも広がった。活発な合評が行われ、参加していた三十五歳の男性が準会員に加入するなど実りある会となった。                                        (久野通広)
 
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