「作者と読者の会」 2018年1月号、2月号


     作者と読者の会
 二月二日(金)午後六時より、文学会事務所で開催。鶴岡征雄「鈴ヶ森刑場跡附近」(一月号)を大田努氏が、大石敏和「お赤飯」(二月号)を牛久保建男氏が報告。司会は宮本阿伎氏。参加者十名。うちスカイプ参加一名。

 「鈴ヶ森刑場跡附近」について大田氏は、この作品は、昭和四十年に関東地方が梅雨入りした一日の中で、二十二歳と十五歳の二人の青年の半生を描く構成になっている、題名は敏彦の背負う暗い人生を暗示する効果がある、学生気分の抜けない寛と後のない境遇の敏彦のギャップを描くことで、生き方の違いを際立たせていると報告した。討論では、細部にリアリティがあり昭和四十年の雰囲気を表現している、納品途中で製品を踏切にばらまいてしまう場面は印象的だが、二人の心の交流にもっと利用すべきだとの意見があった。作者からは主人公は十五歳の敏彦で、寛は敏彦を描くために設定した人物、十五歳で働かざるを得なかった少年の矜持といらだちを描きたかったと語った。

 「お赤飯」について、牛久保氏は、構成的には、一章から六章が十月の一日のことで、七章は修学旅行が行われる十二月の出来事である。被爆による恵子の家族の悲劇が描かれ、背中にひどい火傷をおった恵子が周りの励ましによって、強く生きていこうとする姿を描いたと報告した。討論では、すがすがしく未来に希望を感じるという意見が多く出たが、一方で母親の会話による説明で、話が進んでいく。大人の女になりたくないと思っている恵子の陰の部分を書き込むことで作品に厚みが出てくるのではなど。また、すがすがしさは曲者だ、小説は見えないところを掘り出していくものだ。当時の男女の関係で、こんなに易々と他人に立ち入っていくことは考えられない、人間の捉え方が、違うように感じるとの意見もあった。作者から、作品が掲載に至る経過が、詳細に説明された。  (最上裕)
 
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