「作者と読者の会」 2017年8月号 


  七月二十八日(金)に行われた「作者と読者の会」は、倉園沙樹子「巨艦の幻影」と青木資二「グラデーション」の二作を取り上げた。司会は仙洞田一彦氏、参加者はスカイプ参加二名を含めて二十名。

 「巨艦の幻影」の報告者久野通広氏は、一九四〇年前後、不沈戦艦(戦艦大和がモデル、広島県呉海軍工廠)の製造に携わる工員峰山清吉を主人公に、その一家(妻、子ども二男一女など)を描く小説だが、その建造に当たって徹底した情報統制が行なわれたことは、読者に現代の秘密保護法や共謀罪を思い起こさせる。さらに作品の優れた部分として、侵略戦争の本質が「聖戦」にすりかえられて「大東亜周遊双六」に興じる庶民の姿を映し出していること、特高による卓也の酷い拷問の描写などを挙げた。続けて戦時体制のもとでも戦争への疑問の声を上げた人たちを描きたいとした意欲を評価する、しかし人物造形の一部に不自然さがある、戦時統制下の時代考証に難があるのではないかとも指摘した。

 発言では「作品の途中からファンタジーとして読んだ」「細部のリアルさが不足している」などモチーフの強さを評価しつつも「辛口の評」もあった。外に使用された広島弁の当否、清吉の変化のリアリティなどなど。沖縄から基地反対座り込みの闘いをしている山本翠さんが参加されたが、山本さんは、作品の一行一行が身につまされると発言された。

 作者からは、数年前から戦争に怒りを覚えて書き進め、時代がその後についてきた、「調べた芸術」と言って頂いたが、取材過程、数年にわたり支部誌などに発表しながら推敲を重ねてきたこと。この作品についてより広く合評されることを希望すると述べられた。

 「グラデーション」については、次の通り。報告者北嶋節子氏は、最初にこの作品のテーマは二つあると発言。高校の教員たちが、十八歳選挙権、戦争法、そこに文科省の通達にも絡んで「高校生と政治教育」などの課題をどう模索してゆくかのテーマが一つ、もう一つは二〇一五年九月十九日強行採決された戦争法を一人の高校生が、クラスの友人・家族・学校の中で自分の考えや行動を探ってゆくテーマだと。

 次に北嶋さんは、十数点にわたる見解を自戒をこめつつ提出された。一端を紹介すると、冒頭の情景描写だが、高校生が教室から窓を眺めている視点で描いているようだが、太平山の説明で秋の季節と紫陽花の季節が混在していて、パンフレットの説明を見る思いがする、白井先生の言葉「安全保障となると、はっきりした自分の考えを持つことは、そう簡単ではないように思うな」では、そもそも戦争法とは何なのかをきちんと述べたことにはならない、登場人物が多すぎるのではないかなど。討論では題名の「グラデーション」が表すものは何か、主人公は集会では親や教員に向かうのではなくて同じ高校生に向かうべきなどの意見が出た。

 作者から、理沙をもっと書くべきだった、現場の先生に読んでもらった、実際にはここまではできない、生徒たちは全く無関心な者もいた、などが語られた。      (藤川祥一)
 
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