「作者と読者の会」 2016年12月号 


 
 十二月十一日午後一時から支部誌・同人誌推薦作品の作者と読者の会が、司会は宮本阿伎氏により、参加者十六名で行われた。優秀作の「寂しくても 悲しくても ネギ刻む」と「サクラサクサク」を久野通広氏が、「初冬の風に」と「郷に入りても…」をたなかもとじ氏が、「ジグソーパズル」を大田努氏が報告した。
 久野氏は「寂しくても 悲しくても ネギ刻む」について、詩が効果的に使われ、放課後の会が自立塾になっていき、問題を皆で話し合うなかで親の置かれた背景にも視線がいくところに注目した、主人公の形象や学校の状況を深く描いてほしかったと報告した。討論では、タイトルが印象的、明るくおもしろい、教師集団が見えない、作者の願いが入ってしまっている、主人公の葛藤が見えたい等出された。作者は、どうしても書きたくて初めて書いた作品、生徒は希望でありその大切さを書きたかったと語った。
 「サクラサクサク」について久野氏は、近未来と思ったが、自衛隊の現状をみると極めて現実的である、ラストは相手と対面し繋がりを描いた、兄がなぜ自衛隊に入ったか掘り下げがないと報告。贈り物をするのは通販を利用するだろう、バイトの人間に贈り物を取りに行かせるのはあり得ない、細部を作り上げないと説得力がないが、文章が上手く今後に繋がるなどの意見が出された。
 たなか氏は「初冬の風に」について、登場人物の内面が過不足なく描かれ、父親の壊された人間像から戦争を告発し、悲劇がリアリティと迫力を与えている、年齢や時代設定が分かり難い、パチンコ店での偶然性はリアリティの面でどうかと報告した。討論では、感動した、深みのある作品、もっと書かれていい内容、病院での母の描写がいい、失踪した父と下諏訪でのあり方と人格が結びつかない等出された。作者は、六年前に支部に所属した、戦争の悲惨さを伝えなければ、また逃げずに生きたいという自らの思いを投影したと語った。
 「郷に入りても…」についてたなか氏は、重要で難しい難民問題について祖母と孫を登場させ、真摯に考えようとした意欲作である、複雑さを簡潔に描写するには、また〈どろどろ〉の意味が明確に分かりたい等報告した。テーマの焦点が絞られると読者が読みやすい、来し方が凝縮され、文章が生き生きしている、孫の形象がリアル、ヘイトスピーチの問題と重なる等意見が出された。作者は、これまで在日の問題に関わってきた、難民問題を学習し始め、書きたいと思ったと述べた。
 「ジグソーパズル」について大田氏は、老いをパズルのピースが欠けていくことで表現、母の、押し売りを一喝する面と認知症の状態とを、作者の目が鮮やかにとらえていると報告した。感銘を受けた、老いも素敵だ、説得力がある、文章が上手等意見が出された。
 討論は午後五時過ぎまで行われ、その後お祝いの会が催された。最後まで熱気に溢れた有意義な会であった。
 
 (三原和枝) 
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