「作者と読者の会」 2013年5月号 


 
 四月二十六日午後六時より、文学会事務所で開催され、十五名が参加。乙部宗徳氏の司会で、田島一「二つの城」を牛久保建男氏、風見梢太郎「収束作業」を櫂悦子氏が報告した。
 「二つの城」について牛久保氏は、「時の行路」の続編といえる内容で、職場を追われた非正規雇用の社員たちが組合に結集し提訴するに至った前作から三年余りを経て、東京地裁の不当な判決を聞いた一日を、作者と等身大の主人公作家の眼を通して描いた番外編的な中編だと指摘。年越し派遣村が話題になりマスコミの取材も相次いだ提訴の頃と、政権についた民主党の公約違反や不当判決も続いている現状の落差を、クロダイさんという闘士の声などを通して嘆き、分析していて、考えさせられると報告。
 討論では、「クロダイさんが魅力的で、全体に迫力があった」「カンパのくだりなど目頭が熱くなった」「タイトルが象徴的で、最後に意味がわかった」「二通の手紙が生きている」などの意見が出され、作者からは、「モデルになった人たちに了解は取らなかったが、取れば手を縛られたようになってしまうと感じたからで、主人公作家があまり出すぎないよう心掛けた。今もその後の現実を追いながら続編を準備中」との話があった。
 「収束作業」について櫂氏は、原発事故について書き続けてきた作家が、福島で収束作業に当たる作業員の視点で描いた意欲作だが、主人公の「俺」がこの現場に来た動機や、同僚に給料の額を訊く行為などに自主性や苦悩が感じられず、作業員たちが見たものを深められたか疑問が残ると報告。
 討論では、「危険な中でも飄々と作業している群像がリアル」「最後が尻切れトンボ的に思えた」「ピンハネ、危険手当など問題がよく描けている」「鳶の働く現場の描写がなく、俺の存在感が希薄」などの意見が出され、作者からは、「いわき市の宿舎などで取材したが困難が多く、取材に応じてくれた人の迷惑にならないように職業を鳶に変えたりした。危険手当のポスターを実際に見て感動したが、壊れた建屋の上から見た風景など書ければよかった」との話があり、これにも続編を期待する声が多く寄せられた。 
   
(長居煎) 
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