「作者と読者の会」 2013年10月号 


 
 九月二十七日午後六時より文学会事務所で、十五名の参加で行われた。乙部宗徳氏の司会で、寺田美智子「朝焼け」を櫂悦子氏が、東喜啓「長池ちゃんのこと」を橘あおい氏が、それぞれ報告した。
 「朝焼け」について櫂氏は、管理教育の中で教師がバラバラにされていく事態がリアルに描かれ、教育現場の凄まじさを感じた。主人公が孤立感を募らせ心身を蝕まれていく状況は、読者の心を痛めつつ惹きつける。が、時代が不明瞭であり、登場人物はどんな人間か、主人公が自死を選ぶ苦悩や葛藤について作者も格闘する必要があるのでは、などと報告した。
 討論では、主人公の内面描写を自由に大胆にした方がいい、展望をにじませてほしい、裁判に勝利したところにテーマをおいた方がいい。また、事実の上で小説を書く難しさを感じた、モチーフの強い作品、結末の曖昧さは不満、いや曖昧で読者の想像に任せるやり方でもいい、という意見が出された。
 作者の寺田氏は、現実のモデルから離れられなかった、主人公が追い込まれていく描写が不充分、主任が置かれているしくみそのものを描かなければならないと思った。今の教育現場を生涯のテーマにしたいと語った。
 「長池ちゃんのこと」について橘氏は、労働組合の役割や意義をテーマに描いた作品。語りの文体で、組合運動を知らない人にも分かりやすく読みやすい。ストライキについて討論する場面は、議論が深まらないままで気になったが、主人公をはじめ、人物がしっかりと描かれ、とても魅力的であるなどと報告した。
 討論では、表現が上手く読みやすい、題材が良い、現実にはストライキをやる意味はない、主人公や長池ちゃんの変化に心を打たれた、軽妙で若々しいが就職難に危機感があってもいい、強い葛藤が欲しかったという意見も出された。
 作者の東氏は、長池ちゃんのモデルは赤旗(ひと欄)に出た方で、主人公は寅さんをイメージした。職人かたぎの女性たちの生き様や、無自覚な人の成長物語が書きたかったと語った。
 
  (三原和枝) 
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