「作者と読者の会」 2010年5月号 



 四月三十日、櫂悦子「螺旋の向こう」、小川京子「真夏の嵐」を対象とした「作者と読者の会」が開催された。司会は、予定されていた山形暁子さんの都合がつかず、丹羽郁生さんがつとめられた。二人の作者を含め二十三名による、熱気のこもった会となった。
 最初に新船海三郎さんが、「螺旋の向こう」について報告。「製薬業界のMR(医薬情報担当者)という現代的な職種に題材を求めたこの小説には、良い小説になる素材がいっぱいある。しかし、推敲不足のため、極めて読みにくい。良いテーマだが、作品として結晶し完成していない。述語の重なりや奇妙な漢字やカタカナの熟語もあって、文章が悪い。何を作者が問題としたかったのか、傍線を引きながら読まないと、読めなかった。主要な登場人物相互の関係も分かりにくい。共産党の活動をしている母親の描写が、物語全体から浮いて不自然だ。もっと推敲し書き直していくうちに、テーマがより鮮明になってくる」と問題提起した。合評では、「登場人物が多すぎる」「もりこみ過ぎのため、主題がぼやけた」「若者の会話が面白い」「タイトルの意味が分からない」。「いや、『螺旋』ということで、作者の言いたいことは分かる」「面白く、共感をもって、嬉しくなりながら読めた」「今時の若者相互の人間関係も、面白かった」など活発に意見が出された。櫂悦子さんは、「製薬業界では社員が会社と一体化し、組合も経営者と変わらない。仕事は本来楽しいもので、仲間を大事にして働くことで人間として成長していける筈。どうやったら、矛盾を突き抜けていけるか、その経過を書きたかった。松山医師の質問に、一鉄は誰にも相談せず、休職に追い込まれたが、篤史は相談したことで、問題を解決できた」と語った。
 次に、稲葉喜久子さんが、「真夏の嵐」について報告。「一九五〇年の占領下に起こった、いわゆるビラ配布言論弾圧事件を、作者が取材して書いた。自立しつつある二十一歳の女性の咄嗟の機転など面白く読んだ。家宅捜索、重労働一年という刑など、占領下の冷戦に向かう非常時に起こった、大量首切り、松川事件などの時代を描いたこの作品に感動した」と報告。合評では、「青春を無残に蹂躙された主人公が、かわいそうなまま終わってしまった」「主人公が立派すぎる。もっと弱さを書くことで、主人公の強さが生きる」「導入部が良い。スリルとサスペンスにあふれている」「取材は充分だが、作者は何が書きたかったのか。主人公が美化、単純化され過ぎていないか。作者は主人公をつくっていない。時代を撃つ人間が描けていない。党を避けてしまっている。当時の大阪の党の極左冒険主義を書き込んでも良かった」「作品化するには、難しい時期を書いた意欲は素晴らしい」などの意見が出された。小川京子さんは、「共産党の歴史を読み、この時代を書きたいと強く思った。書くことには恐ろしさも伴い、大変苦労して書いた。共産党の五〇年問題は、書ききれなかった。何故日本がこうなったかを追求したかった。取材したモデルは、本当はもっと立派な人だった。こういう局面では、人間はうじうじしてはいられないと思って、かなりつくって書いた」と語った。
(林 計男) 
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