「作者と読者の会」 2010年12月号 



 十二月四日、十四人参加。作者は全員参加。支部誌・同人誌推薦作品から、小説一編と評論二編が取り上げられた。丹羽郁生編集長の司会で、選考委員の三浦健治氏が三作について報告、一作品ごとに合評した。
 中島荒太「おーい、フーちゃん」は、一人暮らしの老年の主人公が、障害のある幼い女の子へよせる感情の機微を描いて、心温まる良い作品である。私小説のスタイルで書かれているが、母子と父親の関係などに着目し、虚構で描けばドラマ性のある印象深い作品に仕上がったと思うと報告された。
 参加者からは、「私」とフーちゃんの交流は温かい気持ちにさせてくれるが、老人の孤独の深さや家族関係などを描いて欲しかったなど出された。
 中島氏は理屈でなく感覚的なものを大事にした、孤独は淋しさだけでなく人間が生きる根底にあって、展望もあると思うと述べた。
 谷本諭氏の評論「司馬遼太郎をめぐる雑感」について三浦氏は、すぐれた評論であること、文学評論ではないという声には、最近の文学批評は、哲学、歴史学など他分野と交錯しており、こういう文学評論が世界の流れになっていること、「司馬の文学なんて」と性急に否定してはならないことをこの評論は示唆していると報告された。
 意見交換では、司馬の小説を一面的に捉えないために参考になる、論旨明快で良いが司馬の「唯物史観」には弱点がないかなど、活発な討論になった。
 谷本氏は「坂の上の雲」は徹底的に批判しなければと思い、司馬の作品を整理する必要に迫られた、司馬の「唯物史観」は歪みもあるので、議論の呼び水にしてほしいと語った。
 松井活氏の評論「『ヘヴン』が問いかけているもの」について、この評論は『ヘヴン』についての三浦協子氏の読解上の問題点を取り上げ、諸側面にわたって行き届いた分析によって解明、とくに「コジマ」の捉え方、百瀬の力の論理を読み解き、松井氏独自の『ヘヴン』論を展開して説得力のある評論になっていると報告された。
 参加者からは、この評論を読んで、いじめられる側いじめる側の論理と、時代をこえた普遍的な「いじめ」の構図をすくいあげて論じており、共感したなど出された。
 松井氏は川上未映子という作家を知ったのも最近であり、短時間で支部誌の締め切りに間に合わせたので、『ヘヴン』論としては不十分だと承知していると述べた。
 続いて二十人で「入選者を囲む集い」が開かれ、三十三年ぶりの評論二作入選もあり、意気高い交流が行われた。
 
(小川京子) 
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