「作者と読者の会」 2010年10月号 



 十月一日、平瀬誠一氏の司会で行なわれた会は十一名の参加だった。
 まず、坂井実三「枇杷の花の咲くころに」について牛久保建男氏が次のように詳細に報告した。
「定年退職した主人公が日本共産党への入党を勧められ『しんぶん赤旗』の早朝配達をしながら考える構成になっている。レッドパージからニコヨンになり日本共産党の町議になって活動した父。貧しさからその父に反発して会社人間になったが、不安定雇用で苦労している息子たちや現状の厳しさを思い、父の象徴である枇杷の花の咲くころ、入党を承諾しようと決意する。社会への批判を自分の人生のやり直しの背景に描いて巧みだ。高齢の活動家、忙しい女性支部長、ひょうきんな若い党市議も登場し、現在の党を描いた貴重な作品だ」
 討論では、「一日の思いを人生のドラマとしてよく書き切った」「主人公の決意が伝わってきて頑張ろうという気になった」「行きつ戻りつしながら粘り強く一つに辿り着いたことがよく書けている」「配達の途中で思い出すことをもう少し整理すると読みやすい」「父への思いを乗り越えるところをもう少し詳しく書いてほしい」「党を知らない人が読んで全て理解できるだろうか」などが出た。
 作者から「党を書くことがこんなに難しいとは思わなかった。苦労もあるが今後も書いていきたい」と発言があり、熱い拍手を送られた。
 次に、草川八重子「テンポラリー・マザー」について宮本阿伎氏が、欠席した作者のこれまでの作品などを紹介しながら次のように報告した。
「自分も在籍し、そこで育った児童養護施設で保母として働く主人公の子どもたちに寄せる思いや主人公に懐いている三歳児の姿が描かれている。この子の母は高校生で不在。風呂場の浴槽の残り湯にパジャマのまま浸って眠っている子を抱き上げる描写は、四方に光を放つマリア像さえ連想させる。絶対的不平等から人生を歩み出す子もいるという現実から目を逸らさないでほしいという思いが伝わる」
 討論では、「私ならこうすると思った昔の経験が助けてくれるというところがいい」「想像力がすごい。描写も印象的」「誰もいないタンクに手を振るというのはすごい」「誰も責めてないのがいい」「恩師の登場が遅いが、恩師が語るドラマは転調かも」「子どもに寄り添うことが思想になっている」など。
 司会も作者も報告者も参加者全員が「本当の自分を生きるとは、本当に人に寄り添うとは」と熱く真剣に語り中身の濃い会合だった。
(原 史江)  
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