「作者と読者の会」 2009年7月号 



 六月二十六日(金)、作者一人をふくめ十人の参加で「作者と読者の会」が文学会事務所で開かれた。真木和泉「初雪の夜」を燈山文久さんが、佐田暢子「秋立つ日」を風見梢太郎さんがそれぞれ報告者となり、宮本阿伎さんの司会で進められた。
 「初雪の夜」は、東京教育大学が政府と大学上層部によって廃止される七年前、一九六六年に焦点をしぼり、大学の自治寮である桐花寮を舞台にして展開する。全員参加の部屋掃除、スト突入をめぐる論議、ストーブ設置要求の署名行動など、寮の仲間との人間味溢れる交流を通して、主人公の和田俊之が厭世観を脱し生きる目的をつかんでいく。燈山さんはこの作品を温かく爽やかな佳編と評した。反面、第一章冒頭でのテーマの提示は、小説の構成として必要かという疑問も呈した。
 討論では、民主主義が説明ではなく、寮生の具体的な行動を描く形で表現されている。署名が取れずに落ち込んでいた主人公が、労働している父の背中を思い浮かべ、貧しさを恥じる自分の弱い心と闘う姿がいい。江原以外の寮生、特に鈴木に意外性があり、ユーモラスに描かれているのはおもしろい。竹森への署名要請は強引と映るかも知れないが、説明的でない描写で共感できるなどの発言があった。作者の真木和泉さんからは、「書き出しを削れという声があったが、私はこれでいいと思っている。この作品は、昨年の六月号に発表した『もう一度選ぶなら』の二年前に時期設定して描いている。完成を目指しこの続きを書くつもり」との発言があった。
 佐田暢子「秋立つ日」は、五十代半ばの小学校教師未可子が九州の実家に帰省するところから始まる。家にはかつて大学で教鞭をとっていたが、今は脳梗塞で自宅療養している父周平とその介護をしている母文枝の二人が暮らしている。ヘルパーに入浴を手伝ってもらったり、デイケアでリハビリする父の姿を見て、未可子はショックを受ける。尊敬し愛してきた父周平の病と衰えに対する娘未可子の悲しみとある種のいらだちが、抑えた筆遣いで表現されていると風見さんはこの作品を評した。
 討論では、壊されていく父親像を目の前にした主人公の気持の揺れがよく描かれている。父親と母親との間には流れている時間が、娘未可子との間には流れていない戸惑いを、パタパタ玩具の絵模様にたとえて表現している。避けることも受容することも出来ない悲しみは描かれているが、感傷的に過ぎないかなどの発言があった。
 二つの作品について参加者の鋭い視点からの意見交換が活発に展開された。その総てを記述できないのは残念である。
(大川口好道) 
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