「作者と読者の会」 2008年7月号 



 六月の「作者と読者の会」は二十七日、原健一作「葉山嘉樹と『偽満州国』」と本田功「ミカン畑」の二作を取り上げた。司会は田島一氏。「葉山嘉樹と『偽満州国』」の報告者は牛久保建男氏。岐阜県中津川市からの参加もあり、参加者は計十六人。牛久保氏は「原さんが葉山嘉樹をテーマにした作品としては三作目だが、今回が最も良かったと思う。葉山が満州へ行くまでの軌跡を探ることを主なモチーフとし、文学上の先輩である上郷への思いも込めている。転向とか国策に協力した作家という括り方をしないで、あの時代を生きた作家の苦悩に近づこうとした作品だと思う」と報告。討論では「森鴎外が書いた史伝などとは違い、客観的というより、主人公のメンタリティを描いている」「『慰問文』を改めて読み直してみたが時代への抵抗を感じた」「葉山の転向と言っても段階があり、今日評価が困難な面があることも確かだ」などの意見が出された。作者からは「前作への反省から葉山の出発点に立ち返って考えて見たかった」とのコメントがあった。
 
 本田功「ミカン畑」の報告者は宮寺清一氏。宮寺氏は「日本農業の危機がひしひしと感じられる作品だ。六十五歳の私が七十三歳の別れて久しい姉に会いたいという思いがどういうことなのか。いまひとつ伝わらない感じがあり、姉の人生がもう少し浮き彫りになるように描かれていれば、もっと良かったのではないか」と報告。討論では「主人公の私が校長を十年勤めて、ストレスでアルコール依存症になり、退職金を前借りといった描き方があるが、気になってしまう。ただ癒しを求めているだけではと思ってしまう」「姉とじっくり話がしてみたいと言いながら何を話したか描かれていない」と言った欠点を指摘する意見があった反面、「ミカンの収穫の場面で二十キロほど入るコンテナにミカンを入れ、モノレールの荷台に山の斜面という危険な場所で作業する描写など大変良く描かれている」「全体としては水準が高い作品と評価できる」といった意見も多く出されました。   
 (夢前川広) 
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