「作者と読者の会」 2008年10月号 


 
 九月二十六日、櫂悦子作「作為の迷路」、鶴岡征雄作「ある女の肖像」の二作について、司会工藤威氏、二十二名の参加者で進められた。
 「作為の迷路」の報告者旭爪あかね氏は、各章の内容を丁寧に紹介した後、大手製薬会社の研究所で働く派遣社員の悔しさや苦しみ、孤独感、正社員との確執や差別感、実験動物ラットの描写などいずれも説得力があり、全体的にかっちりと構成された優れた作品と語った。また、「有子の気持ちや状況から離れまいとする作者の思いが、作品の緊張感を作りだしており、感動した」と報告。その後の意見交換では「現実の社会システムの下、人間関係が結べずに苦しんでいる若い人に胸を痛めた」「手を結ぼうとしている作者の思いを感じた」等の感想が出された。しかし、将来への希望を予感させる表現(最後の二行)を巡り、「なぜそうした思いが有子に芽生えたのか説得力がない」「大学の後輩に語り始めようとしたところで十分」との感想がでると、一方「作者は、希望があると思っている。その予兆を感じたから描いていると思う」等の見方がだされた。最後作者から「連帯の糸口は、労働とはそもそも楽しいもの。立場を超えた労働者が結びつくにはそこの共有が必要と思う」と語った。

 「ある女の肖像」の報告者宮本阿伎氏は、作者の作品集や文学世界に触れながら、ある女(矢津子)の蒸発を追う顛末と、三十五年後の死までを描く、「若い日の躓きと追慕と悔恨。今だ残っている傷跡」が作品の主題であるとし、真相を最後にもってくる構成、名画の「狂女」に矢津子を重ねる仕掛けの面白さ等、作者ならではの味わいがある作品と紹介。「男の身勝手さと女を見る目に、ついていけなかった。何が悔恨なのか分からない」「作者は狂女を時代の中に置いて分析しながら見ている」「赤裸々に書いてあるところが良い。身につまされるような作品であった」「時代と若い男女、そして老境に入った男のリアリティが一緒になっている」「青春時代の切なさ、思い込み、忘れられない女性像を描いたのではないか」等多様な感想が出された。また、物語の核心、失踪の原因となった日記の内容、そして、真相を明かす矢津子からの手紙とその長さ等のリアリティについても意見が分かれた。作者は「男と女の関係を徹底して書けたら…、これからも今まで通り、自由に赤裸々に、書きたい」と結んだ。
 
 (宮城 肇) 
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